助成事業事例

芸術文化振興基金助成事業令和4年度助成事業事例集

劇団印象-indian elephant-第28回公演「ジョージ・オーウェル~沈黙の声~」

特定非営利活動法人 劇団 印象indian elephant(助成金額:2,000千円)

photo by bozzo

活動概要

劇団印象-indian elephant-は、2003年に旗揚げし、今年(2023年)に活動20周年を迎えました。普段は、東京の小劇場を中心に、大人向けと子ども向けの両ジャンルの演劇作品を創作し、上演しています。

2020年~2022年に、「国家と芸術家シリーズ」と題し、『エーリヒ・ケストナー』、『藤田嗣治』、『ジョージ・オーウェル』、『カレル・チャペック』を取り上げ、国家・ナショナリズムと芸術家の関係を描いた評伝劇の四部作を上演しました。

その「国家と芸術家シリーズ」の第三作目が、2022年に令和3年度芸術文化振興基金に採択された『ジョージ・オーウェル~沈黙の声~』です。これは、『動物農場』、『一九八四年』で知られるイギリスの小説家ジョージ・オーウェルの評伝劇で、オーウェルがまだ小説家としては無名だった時代、BBC(英国放送協会)に勤務し、インド人スタッフたちとインド向けラジオ番組を作りながら、日本軍とラジオ放送による情報戦争を繰り広げていた頃を取り上げた作品です。

助成を受けて

助成を受けて、一番助かっていることは、衣裳に予算を割けることです。観客は、衣裳から、物語の時代の空気や登場人物の個性を直感的に感じ取っていると考えています。評伝劇で歴史ものは、観劇がお勉強になりがちになるジャンルだと思います。観客に、これは、歴史の勉強ではなく、今を生きる自分たちの物語を目撃しているのだと感じていただくため、また、物語の中の登場人物たちは、今そこで生活している人々だと感じ取っていただくため、衣裳は必要不可欠だと考えており、そこに予算をかけることができたので、大変感謝しております。

助成の意義

自分たちの作品が、公的な支援をいただいている公共性をもつものであり、かつ、資本主義社会においてエンターテインメントとして消費される商品である、という二つの側面を、しっかりと背負って活動したいと思っています。言い換えると、演劇は、芸術であると同時に、興行であるべきだと思っています。意義があるだけでなく艶のある作品を作りたいし、面白くて売れるだけでなく観客に問いを投げかける作品を世に出したいです。

本作で言えば、間接的にですが、シンガポールやインドといった、太平洋戦争における、ある種マイナーな土地での出来事を、しかし重要な事実を、人間ドラマとして私たちの次の世代(10代〜30代)に伝える役割を担いたいと思い、創作しました。日本軍のアジアへの侵略を、戦勝国のイギリスの視点から見たドラマ、ということです。幸い、若い来場者も多く、公益性の一部分は担えたと思っています。

公的助成を受けるということは、今、演劇が必要で享受している層=演劇ファンだけでなく、「演劇」が必要なのに届いていない層に、気づいてもらう・広報する・届ける責務があると考えています。『ジョージ・オーウェル』ではやっていないのですが、高校生招待というのを、2023年度に実施しました。今後も続けていこうと考えています。

今後の活動

芸術性と大衆性を両立させ、多くの観客に、新たな視座を提供し、刺激できるカンパニーになることが目標です。また、団体のユニークポイントとしては、国際的な視点を持った作品を創造していきたいと思っています。

2024年3月には、この『ジョージ・オーウェル~沈黙の声~』が韓国語に翻訳され、リーディング公演としてソウルで上演される予定です。オーウェルとインド人のBBCスタッフとの関係を、日帝時代の日本人と朝鮮人の関係に重なる部分もあり、韓国の観客がどう受け取るのか楽しみです。

特定非営利活動法人 劇団 印象indian elephant

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