助成事業事例

芸術文化振興基金助成事業令和4年度助成事業事例集

ヘッダ・ガーブレル ツアー2022

Co. Ruri Mito(助成金額:3,000千円)

photo: matron2022

活動概要

Co.Ruri Mitoは、社会における芸術文化の公益性の中で、「踊ることで生かされている/生きている」と実感しています。

ダンスの生態系の多様性や均衡を形成し、創造性と表現の自由を担保することが、私たちの存在意義であると信じています。この理念の元に、三東瑠璃(主宰者・振付家)が中心となり、若いダンサーたちと創造活動を続けています。言語を超えた次元で人間を突き動かす、生命の根源を探るダンスを生み出し、多くの人々と、その創造過程と成果を共有することが目標です。

『ヘッダ・ガーブレル』は、ノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンの代表作を翻案したダンス作品です。コロナ禍の2021年3月に壁なき演劇センターから依頼を受け、三東瑠璃が演出・振付・出演した作品がベースです。今回、振興会より助成を頂き、作品を再構築し、東京芸術劇場(5公演)、愛知県芸術劇場(2公演)にて実施することができました。

戯曲のストーリーをそのままダンスシーンにするのではなく、踊る身体の存在によって、観客のイマジネーションを言語から解き放ち、あらたな物語を紡ぎ出すと高く評価され、当団体の代表作となるよう仕上げることができました。

助成を受けて

日本において、舞台芸術の分野で、小規模のダンス・カンパニーが、創造活動を続け、若いダンサーを育成し、観客層を広げていくことは、限界集落の維持に近い感覚があります。

2017年結成当初、リハーサルのための会場費を出演者で折半するなど、カンパニーとは名ばかりの状態でした。活動が徐々に評価され、振興会をはじめとした、私的・公的助成を頂き、劇場からは会場費減免助成などを受け、クラウド・ファンディングによる個人からの寄付金を集め、それらを原資として活動を続け、「中堅」カンパニーとして、立ち位置を固めることができました。しかし、作品の規模が大きくなるにつれて、質を確保することに苦心し、制作コストも上がり、カンパニーの持続可能性について大きな疑問が生じています。

私たちは東京を拠点として活動しています。地価を反映しているため、リハーサルと公演のための会場費が高額です。会場費と外部スタッフ人件費に多くのリソースが割かれます。2018年より、公益財団法人セゾン文化財団から、リハーサルスペースを御貸与頂いていますが、それがなくなった際には、作品を創作する場所がありません。

コロナ禍とその後の社会情勢により、劇場から離れた観客を呼び戻すのは、未だ難しく、入場料収入のみで団体を維持することは不可能です。その他の独自財源として、有料公開リハーサル、動画オンライン配信、グッズ販売など行っていますが、人件費と販売管理費を考えると収益が出ません。どの団体も直面している課題と考えますが、助成を頂かねばならない状態が続いていることに忸怩たる思いがあります。

助成の意義

『ヘッダ・ガーブレル』を初演した2021年3月は、コロナ禍の真っ最中で、ごく少数の観客の前での公演となりました。今回、助成を頂いたことで、東京、名古屋の2都市6日間7公演実施することができました。愛知県芸術劇場では、関連企画として、エグゼクティブプロデューサー唐津絵里氏が、戯曲『ヘッダ・ガーブレル』を読む会を立ち上げ、文学ファンにも、ダンスへの窓口を広げて下さいました。東京芸術劇場では、三東と親交のあるスペシャルゲスト:宮沢りえ氏を交えたポストトークを開催。俳優の視点と角度からダンスの魅力を観客に伝えました。

このように、人々の協力を得ながら、コンテンポラリー・ダンスの観客層以外にも、鑑賞機会を提供し、社会における文化芸術の役割と、それについて考える機会を「点と線から面へ」発展させる地道な努力を積み重ねることが重要と考えています。

今後の活動

2017年Co.Ruri Mito結成以来、振興会をはじめ、多くの方々のご支援のもと、『住処』(2018)、『Where we were born』(2020)、『ヘッダ・ガーブレル』(2021)など、代表的な作品を生み出すことができました。2023年3月には、アーツカウンシル東京、国際交流基金、公益財団法人セゾン文化財団より助成を受け、初のヨーロッパ・ツアー(チェコ、ルーマニア、フランス)を実施することができました。プラハとブカレストでは毎回満席となり、パリはデモの影響で交通機関制限がある中で、予想より多くの来場者がありました。「生命の共存のような(中略)中なる感情を身体の動きに変換する(中略)純粋な動きの体験」(Viktorie Štěpánová氏[『住処』プラハ公演])という批評が語るように、私たちが追求する作品性は、文化・芸術が成熟しているヨーロッパでも、十分に評価されるという感触を得て、希望が生まれました。

今後も「身体発進」でダンスの生態系がより多様かつ豊かなものとなるように努力していきます。積み上げてきた身体性のアーカイブ化と再演を目指します。『ヘッダ・ガーブレル』を、シビウ国際演劇祭など、ヨーロッパの3大演劇祭で上演し、日本から新たな物語を発信することも目標の一つです。

多くの方々のご理解とご支援を賜ることができれば幸いです。

Co. Ruri Mito