小さい頃から音楽や舞台の世界に憧れを持っていましたが、文楽の生の舞台に接したのは文楽研修生に応募する1ヶ月程前のことでした。その半年程前から義太夫節というものを通して文楽に興味を持ち始め、義太夫をやってみたいという気持ちが沸いてきて、そんなとき文楽研修生募集のことを知りました。しかも年齢制限であるぎりぎりの歳に自分がいて今しかチャンスがないということ、また専門的な技術を持っていなくとも一から教えていただけるということもあって思い切って応募することに決めました。
長い伝統によって磨き上げられた文楽の世界。名作・名曲・名場面等がありますが、何よりも現代に生きる我々がその歴史を背負い、その芸を受け継ぎ、今日舞台上で太夫・三味線・人形が全力でぶつかり合い、ドラマを創り上げていく。それが一番の魅力ではないでしょうか。
研修一年目の半年間は自分の専攻がまだ決まっていないため、太夫・三味線・人形の三業全てを学びました。文楽の舞台を創る三業の全てに接する事ができたのは何よりも大きな事だと思います。又、三業の他に謡や舞・茶道など広く日本の伝統文化を学ぶことができたのも視野を広げる意味で大きな財産になったと思います。
入門して三年目、「仮名手本忠臣蔵」の通し狂言の初日二日前に急遽代役を頼まれたことです。先輩方の隣に座って一緒にやらせていただいてそのレベルの違いを痛感しました。まだまだ基本的なことが全くできていないということ、自分のやっていることが舞台の大きさに合っていないことなどを身をもって知りました。
文楽の研修は二年間というとても短い期間しかありません。それが修了するともう舞台へ出ていかなくてはなりません。本当の意味での修業は入門してから始まります。
研修期間中で最も大切なことは、文楽の世界に入って多くのことを学び吸収し続けていく、その姿勢を身に付けることではないでしょうか。そんなまっさらな気持ちを持って文楽研修生に応募してきてください。
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