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国立能楽堂

トピックス

【千駄ヶ谷だより】国立能楽堂9月主催公演がまもなく発売です!

《月間特集・刊行400年 仮名草子『竹斎』と能》

 仮名草子(江戸時代初期の仮名書きの物語)『竹斎(ちくさい)』は、藪医者の竹斎が京の都から諸国を行脚して江戸に下る旅行譚です。名所案内記の草分けといわれ、能・狂言から影響を受けた場面が随所に見られます。今年は『竹斎』刊行から400年。月間特集として、作品にまつわる能・狂言を取り上げます。

 

狂言 雷

 都の藪医者が、いよいよ食い詰めて東国に向かうことにします。途中、広い野原で夕立に合い立往生していると、空がピカリッ! と光り、大音とともに雷が落ちてきました。腰をしたたか打って痛がる雷に、藪医者は薬を与え、鍼(はり)治療を施します。雷は鍼を痛がって大騒ぎしますが、治療の甲斐あって回復すると、そそくさと天上に戻ろうとします。藪医者はそれを引き止めて、治療費を請求します。持ち合わせのない雷は…。

能 善知鳥

 陸奥国・外の浜へと向かう途中、霊山・立山(たてやま)に立ち寄った旅僧の前に、ひとりの老人が現れます。老人は、去年死んだ猟師の霊だと打ち明けると、外の浜に住む妻子のもとに自分が使っていた蓑笠を届けてほしいと僧に頼みます。
 妻子を訪ねた僧が供養をはじめると、在りし日の猟師の亡霊が姿を現しました。明けても暮れても鳥を獲ることを生業(なりわい)として、気がつけば殺生を愉しみ夢中になっていたと告白し、往時の猟の凄惨な様を再現してみせます。その報いで地獄に堕ちた今は、かつて自分が殺した鳥たちに肉をついばまれる身。どうかこの苦しみから救ってほしい――。やがて猟師の霊は消え、僧の耳には助けを求める声だけが残るのでした。

 

狂言 薩摩守

 天王寺参詣にやってきた出家は、茶屋で一服すると、そのまま店を出て行こうとします。茶屋の主人はあわてて呼び止めて茶代を請求します。ところが出家は一文無し。この先の渡し船に乗るには船賃が必要だと教えると、出家は徒歩(かち)で川を渡ると言います。気の毒に思った茶屋は、渡し船にただで乗る秘策を教えます。船頭は秀句(しゅうく・洒落)が好きなので、「船賃は平家の公達、薩摩守」と言い、その意はと聞かれたら「忠度(ただ乗り)」と答えるよう教えますが、いざ船に乗ると、出家は肝心の「忠度」の名を忘れてしまい…。

能 兼平

 木曽義仲の跡を弔うため、義仲終焉の地である近江国・粟津原(あわづがはら)へと向かう旅の僧が、矢橋(やばせ)の浦で老人が漕ぐ柴舟に乗せてもらいます。比叡山をはじめとする周辺の名所の景色を眺めながら船は湖上を進んでいきます。そうして粟津原に着くと、老人の姿は見えなくなってしまいました。
 僧は、土地の渡し守から、この地で果てた木曽義仲と忠臣・今井四郎兼平の最期の様子を聞き、先ほどの老人が兼平の亡霊だったことを察します。回向する僧の前に、往時の姿となって現れた兼平の霊は、義仲と自らの壮絶な最期を語るのでした。

狂言 膏薬煉

 日本一の膏薬(膿を吸い出す塗り薬)と評判をとる、都の膏薬煉(薬屋)と鎌倉の膏薬煉。たがいの噂を聞きつけたふたりは、どちらの膏薬が優れているかを競って対決となります。それぞれ「馬吸い」「石吸い」と名付けられた由緒や効能を並べ立て、調剤の種類を披露しますが、平行線のまま埒があきません。ついに、実際の効果を測ろうと膏薬を鼻に付けて「吸い比べ」をすることになり…。

能 西行桜

 洛西・嵯峨野に暮らす西行は、庵の庭で花の見ごろを迎えた老木の桜をひとり静かに楽しもうとしています。そこに、桜の評判を聞きつけた下京の者たちが連れだって花見におしかけてきます。しかたなく西行は人々を庭に迎え入れますが、桜のせいで隠遁(いんとん)の愉しみを邪魔されたことを残念に思い、桜の美しさは愛でるに値すると同時に「咎(とが)」でもある、と歌を詠みます。
 夜になると、桜の木陰から老人が現れて、「憂き世の出来事をどう受け止めるかは人の心の持ちよう。花の罪ではない」と西行に訴えます。老人は老桜の精であることを明かし、こうして歌を縁に西行と出会い仏法に触れることができた喜びを語り、舞い、夜明けとともに消えていくのでした。

 

◎ 蝋燭の灯りによる

 蝋燭のほの灯りに照らされた舞台で、光と陰のコントラストのなかに描き出される幻想的な世界をお楽しみください。

狂言 磁石

 遠江国(とおとうみのくに)・見附(みつけ)から都見物にやってきた男が、大津の市をのぞいていると、近づいてきたすっぱ(騙(かた)り者)に宿を紹介されます。実は宿の主人は人買いで、すっぱから見附の男を買い取る約束が結ばれているのです。眠ったふりをしてその一部始終を聞いていた見附の男は、宿の主人を騙して金を受け取り、逃げ出します。気づいたすっぱが太刀を手に追いかけると、見附の男は太刀を口から飲み込もうとして、なんと、自らを磁石の精だと名乗り…。

能 竹生島

 竹生島参詣のため琵琶湖を訪れた朝廷の臣下たち。湖岸で、若い女を乗せた老人の舟を見つけ、同乗させてもらいます。島に着くと、老人は霊地・竹生島の由緒を語り、島の守り神・弁財天へと案内します。臣下は、同乗していた女が、女人禁制と聞くこの島に足を踏み入れていることを不審に思いますが、女は「弁財天は女体だから、この島は女人禁制ではないのだ」と答えます。そうして老人と女は、実は自分たちこそ琵琶湖の龍神と島の弁財天なのだと明かして、波間に姿を消してしまいました。
 夜になり、参籠している臣下たちの前に、弁財天が来臨して舞を見せます。さらに龍神が水中から姿を現すと、臣下に宝珠を捧げて御代を寿ぎ、勇壮な舞を見せるのでした。
 国立能楽堂主催公演における金春流での上演は初となります。

 

【文/氷川まりこ(伝統文化ジャーナリスト)】

 
●9月主催公演発売日
  • ・ 電話インターネット予約:8月10日(土)午前10時~
  • ・ 窓口営業日:8月24日、29日、9月4日、14日、20日、26日
      国立能楽堂チケット売場窓口・自動発売機は国立能楽堂主催公演日のみの営業となります。
      詳細は「国立能楽堂 チケット売場営業時間変更のお知らせ(2024.8.1)」をご覧ください。
  国立劇場チケットセンター(午前10時~午後6時)
  0570-07-9900/03-3230-3000(一部IP電話等)
  https://ticket.ntj.jac.go.jp/