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国立劇場

研修インタビュー 中村好蝶(なかむらよしちょう)(平成29年3月第22期歌舞伎俳優研修修了)※令和元年12月掲載

《歌舞伎に人生を懸けるため、東京へ》
Q. 好蝶さんが伝統芸能と出会ったのはいつですか?
A. 祖母の影響で、小学校2年生から地元の山形で新舞踊を習い始めました。その後、高校1年生から2年間、国の登録文化財建造物である酒田市の相馬樓で、お昼に酒田舞娘(まいこ)の方たちのお稽古が終わった後に、30分ほど師匠に日本舞踊と長唄三味線のお稽古をしていただいていました。

Q. 初めて歌舞伎を観たのはいつですか?
A. 小学校5年生の時に、祖母の故郷で地芝居の黒森歌舞伎を観たのが最初です。『菅原伝授手習鑑』の「車引」が上演されていて、かっこよかったです。地芝居ではなく、興行として上演されている歌舞伎を初めて観たのは、高専2年生か3年生の夏休みだったと思います。どうしても歌舞伎を観たくて、家族に内緒で東京まで出てきて、歌舞伎座の納涼歌舞伎を拝見しました。

Q. 研修生に応募した経緯を教えてください。
A. 国立劇場の研修のことは、日本舞踊の先生から小学生の頃に聞いていました。中学生の頃には、研修生になりたくて劇場に資料請求をしましたが、残念ながらその年の募集は終わっていました。その後、進路に迷うことはありましたが、ホームページで研修内容を調べ、歌舞伎俳優になるための勉強をしたいという気持ちが強くなりました。高専の3年生の時に受験するチャンスに恵まれて、研修生に応募しました。選考試験の際は、人生がかかっているので、心音が聞こえるくらい緊張しました。

《迷いなく、研修に打ち込む》
Q. 一番印象に残っている研修は何ですか?
A. 歌舞伎実技の研修です。まず先生から本(台本)をいただいて、先生のお手本の通りに、研修生皆で本を読むことから稽古を始めます。発音、イントネーション、強弱など、気を付けるところがたくさんあって、苦労しました。それから、動きを交えた稽古をします。台詞を覚えるのが大変でしたが、丁寧に稽古していくので、気付いたら覚えれられるようになりました。

Q. 日本舞踊や三味線を稽古してきたことは、研修生になってから役に立ちましたか?
A. 研修生になりたての頃は役に立ちました。同期は9人いましたが、日本舞踊は8人、三味線は4人経験者でした。ただ、歌舞伎はそれまで習ってきたお稽古事とは別物なので、一から学ぶ必要がありました。

Q. 立廻り(闘争する場面の演技・演出)の授業では、とんぼと呼ばれる宙返りも習得しますね。とんぼの授業はいかがでしたか?
A. できるようになりたかったので、一生懸命やりました。難しかったですが、できるようになれば楽しいと思います。できる人はどんどん伸びていく科目です。

Q. 先生方のご指導はどのような感じですか?
A. 厳しいですが、丁寧に教えてくださいます。できたところはできたと言ってくださるので、本当にこれでよいのかと迷うことがありません。

Q. 授業のない時間は自習時間ですが、自習はどのように行っていましたか?
A. 授業のない時間のほか、夕方に居残りをして自習していました。基本的には自分のやりたいものを自習しますが、分からないことがあると同期の研修生に質問しながら助け合って行っていました。

Q. 同期とは今でも交流がありますか?
A. 職場が一緒なので、毎日顔を合わせています。仲のよい人はいますが、べったりではなく、いい距離感で接しています。先輩でも後輩でもない同期の存在は有難いです。

Q. 好蝶さんは女方ですが、立役と女方はどのタイミングで決めるものなのですか?
A. 研修開始の頃から希望がある人が多いです。私は女方さんが好きで歌舞伎俳優になりたいと思っていましたが、この頃は絶対女方になろうとまでは思っていませんでした。

Q. 研修開始から8カ月以内には適性審査があり、研修を続けられるかが決まりますが、いかがでしたか?
A. それまで日頃の研修の様子も先生方にみていただいているので、選考試験ほどは緊張しませんでした。夏季休暇で研修のない時期がありましたが、研修開始時から適性審査に受かることを目標に頑張ってきたので、研修が休みの間でも気持ちが揺らぐことはありませんでした。

Q. 上京してから、どこに住んでいましたか?
A. 国立劇場の宿舎が用賀にあるので、そこに住んでいました。私以外にも宿舎から通っている研修生が数名いました。

Q. 食事はどのようにしていましたか?
A. 自炊をし、家族からの仕送りでやりくりしていました。

《憧れの舞台に!》
Q. 研修を修了してからは、お稽古はどのようにしていますか?
A. 日本舞踊、鳴物、長唄三味線のお稽古に行っています。出番の都合によって、通える月と通えない月があります。研修生時代に、「修了してからはあまりお稽古に行けなくなるよ」と言われたことがありますが、2年間みっちり研修を受けることができたのは、大変でしたがよかったです。

Q. 研修を修了して、初舞台は平成29年4月歌舞伎座で上演された『伊勢音頭恋寝刃』でしたね。
A. はい、油屋の仲居のお役を勤めさせていただきました。現場はまさに「百聞は一見に如かず」で、先輩方に手取り足取り教わりながら舞台に立ちました。例えば、研修生時代は衣裳の研修があって、80分くらいかけて衣裳の着方を教わりますが、舞台では衣裳を渡されてすぐに自分で着られるようにならなければなりません。最初の1週間は先輩に着替えを手伝っていただきました。

Q. 思い出に残っている舞台は何ですか?
A. 全部の舞台が素敵な思い出なので、一つにしぼるのは難しいのですが、平成29年7月大阪松竹座で上演された『二人道成寺』の後見をやらせていただいたのが印象深いです。テレビや舞台で観て憧れていた『道成寺』に出ることができ夢のようでした。

Q. 後見を勤めるのはお好きですか?
A. はい、師匠方に付きっきりで芸を学ぶことができて楽しいです。1か月の興行の間ずっとお芝居を間近で見ることができるので嬉しいです。研修生の頃は、こんなに近くでお芝居や小道具や衣裳を観る機会はなかったので。

Q. 歌舞伎俳優の仕事に就いてよかったことは何ですか?
A. 舞台が好きなので、華やかな舞台の裏に回って支えられることが嬉しいことですし楽しいです。

Q. 今年令和元年8月には、「稚魚の会・歌舞伎会合同公演」(国立劇場の歌舞伎俳優研修既成者発表会)で、「与話情浮名横櫛」のお富役を演じられましたね。
A. 普段は腰元や通行人、仲居などのお役を演じていますので、お富として主役を演じるのは、いつもと全然違いました。

Q. 今後の目標は何ですか?
A. 勉強させていただけるお役を、しっかり勤めていきたいです。

Q. 歌舞伎俳優の研修生に応募したいと思っている読者の方に向けて、メッセージをお願いします。
A. 研修生に応募しようか迷っているなら、是非見学会だけにでも参加して、どういうところで勉強しているのか見てください!

「与話情浮名横櫛」横櫛お富(令和元年8月「稚魚の会・歌舞伎会合同公演」)