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国立劇場

研修インタビュー 中村萬壽(なかむらまんじゅ)師(歌舞伎俳優研修主任講師)※令和元年12月掲載

 中村萬壽先生は四代目中村時蔵の長男として生まれ、子役のころから歌舞伎俳優として活躍されています。主に女方として大きな役を勤め、歌舞伎界を牽引されています。また、平成19年には歌舞伎俳優研修講師に、平成30年には主任講師に就任され後進の指導にもあたっています。今回は、俳優としても指導者としても充実し、歌舞伎界の未来を切り拓いていらっしゃる先生にお話を伺いました。

《よりよい研修を行うために》
Q. 先生が研修講師になられた経緯を教えてください。
A. これまで歌舞伎俳優研修は、二代目中村又五郎のおじさん、六代目澤村田之助さん、六代目尾上松助さんの3人が中心になって教えていました。私と市川圑蔵さんは、当時伝統歌舞伎保存会の会長であった七代目中村芝翫のおじさんから、研修の様子を見てくるようにと頼まれ、研修を見学に行きました。何度か見学するうちに、国立劇場からお声がかかり、私たちが教えることになりました。その時から、教えながら、研修をよりよいものにしていこうと努力しています。

Q. 具体的には、研修を改善するためにどのようなことをなさってきたのですか?
A. 舞台で脇役を演じる先生方には大名や腰元の演技を教えてもらい、主役級の役は私や圑蔵さんが教えるようにしました。研修を修了してから大きな役をもらうことがあまりなくても、主役級の役を稽古することで、研修生のやる気が出ます。
 また、研修の1年目と2年目に行う実技の演目について、扱うジャンルを明確にしました。1年目は「寿曽我対面」や歌舞伎十八番、新歌舞伎など、「歌舞伎」のために書かれた作品を扱い、発声と歌舞伎独特のイントネーションを重点的に教えます。2年目は元々人形浄瑠璃のために書かれた義太夫狂言を扱います。義太夫狂言には舞踊的要素が必要で、竹本との掛け合いも勉強しなければなりませんから、ある程度経験を積んだ2年目にやる方がよいです。世話狂言については、修了後、入門してからしっかり勉強するようにしています。

Q. 令和2年度から歌舞伎俳優研修生を毎年募集することになりますが、どのようなよい変化が起こると考えられますか?
A. 現在歌舞伎俳優は300名ほどいますが、年々減ってきています。歌舞伎を残していくためには、俳優の数が増えた方がよいです。隔年募集ですと、中学校や高校を卒業し、これからの進路を考えるタイミングに募集がなかった人が、応募の機会を逃してしまうことにつながりますので、毎年募集を行うことはとても大きな改革といえるでしょう。
 研修は、歌舞伎実技の授業は2学年合同でも行い、舞踊や立廻りは学年別に行おうと思っています。歌舞伎実技については、上級生に大きな役を与えることにより、上下関係等も学べます。ゆくゆくは養成所が学校のようになればよいですね。舞踊や立廻りを少人数で教えれば、講師の目が届きやすくなります。

Q. 研修生に特にできるようになってほしい科目はありますか?
A. 「とんぼ」ができるようになると、舞台で重宝され、役がつくようになっていきますので、とにかく頑張って習得してほしいです。女方でも立廻りをすることはありますから、そういう時に「とんぼ」特有の間が分かっていれば、事故を防ぐことにつながります。

《活躍するチャンスは増えてきています》
Q. 歌舞伎俳優に向いているのはどういう人だと思われますか?
A. いろいろなタイプの人が歌舞伎俳優を目指してよいと思います。ですが、教えていることを信じて、講師についてきてほしいです。反発してしまうと、芸が身につきません。素直であることが大事です。

Q. 最近は一般家庭出身の俳優が活躍する機会も増えてきていますね。
A. はい。今は若手俳優の勉強会が多い分、出番や台詞をもらいやすくなっていると思います。また、日本俳優協会賞を何回も受賞した人を幹部に引き立てたり、三階さんにも奨励賞を与えたりして、努力すれば入ってからの道が開けるようにしたいと思っています。

Q. 研修修了者など、若手の俳優に伝えたいことはありますか?
A. 歌舞伎は我が国の重要無形文化財であり、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。ですから、歌舞伎を支えているというプライドを持って頑張ってほしいです。人間国宝として認定されたり文化勲章を授与されたりしている方々と一緒に、歌舞伎座や国立劇場の舞台に立っていることが特別なことだという意識を持ってほしいです。

Q. 俳優研修生を目指す方にメッセージをお願いいたします。
A. 歌舞伎界は世代交代しているところですので、若い人が起用されることが多くなってきています。芝居についても、人付き合いについても、自分なりに楽しみを見つけて仕事をしていくとよいと思います。研修生になり、やがては歌舞伎の世界に入ってくる皆さんと、歌舞伎界を盛り上げていきたいです!

本日はお忙しい中、ありがとうございました。