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国立劇場

研修インタビュー 鳥羽屋 三一郎(とばや さんいちろう)※令和3年8月掲載

 鳥羽屋三一郎さんは、平成31年に歌舞伎音楽(長唄)研修を修了し、鳥羽屋三右衛門社中で、長唄の唄方として活動しています。

《高校から始めた長唄と舞台の勉強》
Q. 三一郎さんの、長唄との出会いについてお話しください。
A. 中学3年生で進路を決める時に、特に高校でやりたいことが思いつかなかったので、志望校を迷っていました。家族が「ここがええんちゃう?」と言って、古典芸能や舞台芸術を広く学ぶことのできる大阪府立東住吉高校の芸能文化科を勧めてくれました。それまで私は舞台も音楽もやったことがありませんでしたが、さすが家族は私の向いていそうなことが分かるのですね(笑)。そこで歌舞伎に興味を持ち、中でも長唄の細棹三味線の音や唄が好きになりました。

Q. 高校時代から長唄は勉強していたのですか?
A. はい。長唄三味線の実技の授業を2年間受けました。

Q. 長唄研修生になろうと思ったのはいつですか?
A. 高校を卒業する時に、芸能以外の別の進路も考えていましたが、ちょうど研修生を募集していると知り、挑戦してみようと思いました。

Q. 高校の先輩や同級生の方で、長唄や歌舞伎の仕事をする方は多いのですか?
A. 同じ社中の鳥羽屋里松(とばやりしょう)さんは、高校の先輩です。他にも、歌舞伎俳優、狂言方(柝を打ったりして、舞台の進行の管理を担当する)、大道具、音響などをやっている方がいます。

《鳥肌の立つ研修》
Q. 研修生時代に想い出に残ったことは何ですか?
A. 稽古で先生のお手本を拝聴して鳥肌が立ったことがあります。すごい方々に教えていただいているのだと実感しました!

Q. 大変だったことはありますか?
A. 音程を正確に取ることが難しかったです。特に、研修生になったばかりの頃は、三味線の音を聞いて、それと同じ音を発声することさえ大変でした。先生と同じ音を出せるようになるために、先生のお手本を録音させていただき、それを何回も聞きこんで発声練習を繰り返し、あきらめずに頑張りました。

Q. 年度末には、日頃の研修の成果を披露する研修発表会がありますね。発表会の思い出をお話しください。
A. 発表会では、研修生は立唄や立三味線(舞台上のひな壇中央に座り、唄と三味線のそれそれの演奏をリードする役割)を経験させていただきます。掛け声をかけたり、曲のノリを作ったりするポジションですので、難しかったです。
 3年次の卒業間際の研修修了発表会では、「楠公」(南北朝時代の忠臣・楠木正成の親子愛と、勇ましい戦の様子を描いた曲)を唄わせていただきました。力強い曲が好きなので、演奏できて嬉しかったです。

Q. 研修では、実技以外にも様々な授業がありますね。
A. そうなんです。長唄の実技以外に、鳴物や謡曲の実技、歌舞伎や長唄などについての講義、体操、作法、習字などの研修がありました。長唄以外では体操が好きでした。

Q. 研修は国立劇場の敷地内で行われ、伝統芸能を身近に感じられる環境ですね。国立劇場などの舞台を観る機会はありましたか?
A. 研修の一環で、歌舞伎公演や長唄演奏会など、様々な舞台を見せていただきました。特に歌舞伎の出囃子(舞踊の演目で、演奏者が舞台上に並んで演奏すること)では、普段指導してくださる先生方や先輩方が演奏されているお姿を間近に拝見できますので、大変勉強になりました。

Q. 同期や他のコースの研修生との交流はありましたか?
A. 長唄コースの私の同期は、私を含め2人だけです。今でも、大変な時などにお互いに連絡を取っています。先輩の中には、同期同士で頻繁にご飯に行く方もいるようです。

Q. 三一郎さんは研修生になった時に上京し、一人暮らしを始めましたが、大変でしたか?
A. 最初の頃は、洗濯も料理もあまりできませんでしたが、だんだんこなせるようになりました。最近は自炊する機会も以前より増え、好物のから揚げなどを料理しています。

《想い出の場所で演奏できた!》
Q. 研修修了後は、どのような稽古をして舞台に臨んでいますか?
A. 月の後半に次の月の配役が発表され、音源を聞いたり資料を見たりして、各自で稽古を進めます。立唄や立三味線の方のご意向で、長唄だけで合わせ稽古をすることもありますが、そうでなければ総ざらい(全ての出演者が集まって、本番数日前に行う稽古)の日までは合わせません。

Q. 演奏家として、日常生活で心がけていることはありますか?
A. 健康管理に気を付けて過ごしています。

Q. 研修を修了してから出演した舞台で、印象に残っているものはありますか?
A. 3年間の研修を修了した令和元年の12月に京都の南座で唄った歌舞伎長唄「越後獅子」です。「越後獅子」は高校の授業で初めて演奏した曲で、南座は学生時代に初めて歌舞伎を観た場所ですので、感慨深かったです。

《いつまでも終わりがなくて面白い》
Q. 長唄の魅力を教えてください。
A. 舞踊や演奏会で演奏される、いわゆる「番物」と呼ばれる長唄の曲は数百曲あります。これに、歌舞伎の登場人物の心情や情景を表現するために舞台の御簾内で演奏される黒御簾音楽もあわせると、歌舞伎長唄で演奏される曲はかなりの数になります。それぞれの曲の持つ雰囲気が異なるので、何曲勉強しても飽きることがありません。いつまでも終わりがなくて面白いです。

Q. 今後の抱負を教えてください。
A. まだ未熟なので、もっとしっかり芸を身に付けられるように精進します。

Q. 研修生を目指す人にメッセージをお願いします。
A. 歌舞伎長唄は、未知の世界だとか、自分には馴染みのない仕事だとか思うかもしれません。ですが、研修生になれば素晴らしい先生方に教わることができ、恵まれた環境で修業できるので、長唄や歌舞伎が好きで興味があるなら、是非研修生に応募してみてください!

本日はお忙しい中、ありがとうございました。