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国立劇場

研修インタビュー 鏡味 小時(かがみ ことき)※令和3年11月掲載

 鏡味小時さんは、平成26年に第7期太神楽研修を修了後、鏡味勇二郎師匠に入門し、太神楽曲芸師として活動しています。

《偶然の出会いにより太神楽の道へ》
Q. 小時さんは研修生になる前から、伝統芸能になじみはありましたか?
A. 中学生の頃に学校行事で能楽の公演を観たくらいで、伝統芸能に触れる機会はあまりありませんでした。自分でチケットを取って公演を観に行ったことはなかったです。

Q. 研修生になろうと思ったきっかけをお話しください。
A. 新聞で研修見学会のお知らせを偶然目にして、「これも何かのご縁かな」と思い、研修見学会に行きました。そこで初めて太神楽を見学・体験させていただきました。道具を触らせていただいたりしてとても楽しく、師匠も優しかったので、「この道に進もう!」と決意しました。

《まずは身体を適応させる!》
Q. 3年間の研修生活はいかがでしたか?
A. 平日は毎日10時から18時まで、時間割に沿って研修を受けました。研修の合間に休憩をはさむことは珍しく、みっちり授業を受けさせていただきました。太神楽は腰や首に負担がかかる動きが多く、これまで生きてきてあまり使ったことのなかった部分を使います。特に、立てものはずっと上を向いて稽古するので、首が痛くなります。最初のうちは、ただただ身体を回復させることに必死でした。でも、半年くらい経つと、筋肉がついて身体が適応してきて、稽古や自習がどんどん捗るようになりました。

Q. 研修はどのように行われますか?
A. ひたすら曲芸をやります。師匠方はアドバイスをくださいますが、基本的にほとんどしゃべりません。芸は本来、現場で先輩の芸を見て覚えるものですから、手取り足取り教えるというより、こういったスタイルの方が当たり前かもしれません。

Q. 好きな科目は何でしたか?
A. 太神楽の実技の研修は全部好きでした。新しい技を学ぶのが楽しかったです。それと、研修生になる前から元々音楽が好きでしたので、三味線、鳴物、寄席囃子の授業も面白かったです。

Q. 苦手な科目はありましたか?
A. 舞踊です。研修生になるまで邦楽に触れてこなかったので、邦楽に合わせて踊るのは大変でした。特に女性の動きが難しかったです。「うまく出来なくてすみません」と、先生に心の中で謝りながら、見よう見まねでついていこうと奮闘しました。また、茶道を通して立ち居振る舞いを学ぶ作法の研修がありますが、これも未経験だったので、空気感をつかむのが難しかったです。

Q. 太神楽以外の科目は、修了後にどのように役に立っていますか?
A. 寄席囃子や鳴物は、修了してからも寄席で使いますので、非常に役に立っています。舞踊では身体の基礎を作ることができました。身体の基礎ができていれば、獅子舞で役に立ちます。修了してからも踊りの稽古を続けている先輩もいらっしゃいます。

Q. 稽古のない時に自習はしましたか?
A. はい。研修生になったばかりの頃、稽古のない時はストレッチをして身体を回復させていました。筋肉がついて、身体が太神楽に適応してくると、曲芸の自習もできるようになりました。これに加え、三味線などの自習もしていました。

《お客様や場面に合わせて芸を魅せる》
Q. 研修を修了して、勇二郎師匠に入門しようと思った理由を教えてください。
A. ボンボンブラザースが好きだからです。それに、研修には複数の師匠がいらっしゃり、それぞれの師匠や一門のやってきたことを学べますが、勇二郎師匠のやり方が私の身体に最も合っていると思ったからです。師匠に「こうやったらいい」と言われ、その通りにやってみたら本当に技ができるようになりました。研修を終えた今でも、いつも親身になって教えてくださいます。

Q. 太神楽曲芸師になって、一番良かったことは何ですか?
A. 国内外の様々な土地に行けることです。いろいろなものに触れることができるのは、とてもありがたいです。特に、全国各地の小・中学校を訪問して行う学校寄席は、土地ごとの空気の違いがよく表れて、その違いに触れることが嬉しいし楽しいです。学校寄席では、生徒さんに太神楽の体験をしてもらうことが多いのですが、生徒さんが人生で初めて着物を着る瞬間に立ち会ったりして、行くたびに新鮮な気持ちになります。

Q. これまでで特に印象に残っている公演は何ですか?
A. 海外公演です。就業して2~3年目の頃に、カンボジアやタイなど、東南アジアの数か国を廻りました。東南アジアは曲芸が浸透した土地でして、日本のお客様と笑いのツボが異なります。海外で太神楽を披露する際は、その土地の方々の感覚に合わせることが重要だと気づきました。
 狭い、天井が低いなど、稽古場とちがって曲芸がやりにくい環境で芸を見せることも印象に残ります。屋形船で曲芸をやった時は、芸を始める前に船酔いをしてしまいました。でも、始まってしまえば集中するので、却って体調がよくなりました(笑)。また、毎年お正月に浅草の商店街を回って太神楽をやりますが、瀬戸物屋さんでは、絶対に割ってはならない売り物のお茶碗に囲まれていますので、なかなかのプレッシャーです。どんなにやりづらい環境でも、根性でやり遂げます!

Q. 寄席以外でも、様々な場所で演じることがあるのですね。
A. はい、太神楽はおめでたい芸ですので、結婚式や企業の忘年会、新年会、会合など、お祝いの場で演じることも多いです。寄席で太神楽に興味を持ってくださった方が、町内会の会合などで呼んでくださることもあります。太神楽は総合演芸で、曲芸のほかにも掛け合い茶番(漫才・コントの元になったと言われている、掛け合いでもお笑い)などの芸もありますから、そういった幅広いレパートリーの中で、時間や客層に合わせて何をやるかを決めます。

Q. 「太神楽は総合演芸」と仰いましたが、普段はどのような芸を披露することが多いのですか?
A. 曲芸のほかに、獅子舞をやることが多いです。獅子舞には鳴物が必要ですので、鳴物をやることもあります。

Q. 太神楽は一人でやる芸だというイメージを持たれることもありますが、獅子舞はチームワークが大切ですよね。
A. そうですね。団体で活動することが多いので、先輩や同期とは頻繁に連絡を取り合っています。一緒に稽古したり、プライベートな連絡をすることもよくあります。

Q. 身体作りのためになさっていることはありますか?
A. 腰や首への負担を減らすため、ストレッチ、筋トレ、ジョギングをしています。よく動き、よく寝ることが大切だと思います。舞台がない日でも、身体はきちんと動かします。散歩が趣味なので、2~3日公演がない場合は、半日ずっと歩いたりしています。

Q. 舞台に立つ上で、普段から心がけていることを教えてください。
A. 緊張を防ぐために、本番でも稽古だと思って出ています。稽古で教わったからといって、人前でも必ずできるというわけではありません。きちんとやろうとすればするほど、余計に緊張してしまいます。身に着いているもの以上のものをお見せすることはできないので、楽しく笑顔で、でも身体の感覚は稽古通りにやることを心がけています。

Q. 特に緊張するシチュエーションはありますか?
A. 寄席の初日は一番緊張します。初めて太神楽を観る方は驚いてくれますが、常連のお客様が多い寄席では、ちゃんと良いものをやらないと振り向いて頂けません。

《努力すれば必ず評価してもらえる》
Q. 今後の目標は何ですか?
A. 今はまだ下地作りの段階ですので、新しい技をできるようにすることと、新しい道具を使えるようにすることが目標です。それができたら、キャラクターや道具で他の太神楽師との違いを出していきたいです。

Q. 研修生になるまでにやっておいた方がよいことはありますか?
A. 「1時間上を向けるようにしてきてください」というのは苦痛すぎて自分一人ではできないと思うので(笑)、ストレッチと体幹トレーニングをしておくとよいと思います。腕や首をよく回すことも大事です。それから、腰痛、首凝り、肩凝りは治しておいてください。

Q. 研修生になりたい人にメッセージをお願いします。
A. 太神楽は、神様への奉納といった神事芸能として発達し、次第に娯楽色が強くなっていったもので、分かりやすく、楽しく、面白い芸能です。また、努力すれば必ず評価してもらえる仕事です。鏡味仙三郎師匠に「太神楽はやればやるほど評価される。どれだけやるかでどれだけ上手くなるかが違ってくるから、頑張って励みなさい」と言われたことがありますが、本当にその通りだと思います。太神楽を見て面白いと思ったら、是非その気持ちを忘れないで、一緒に太神楽をやりましょう!

本日はお忙しい中、ありがとうございました。