研修インタビュー 鶴澤 繁二(つるさわ はんじ)※令和3年7月掲載
鶴澤繁二さんは、平成27年に歌舞伎音楽(竹本)研修を修了し、竹本の三味線弾きとして活動しています。
《三味線の生音に触れた感動》
Q. 研修生になる前は何をやっていましたか?
A. 小学1年生から高校3年生までは野球一筋でした。
映画が好きで、大学は日本大学芸術学部の映画学科に進み、撮影の勉強をしました。一方で、大学生になってからかねてから興味のあった古典芸能を学ぶため、歌舞伎サークルに入りました。サークルでは、部員が役者と、大道具や小道具などの裏方、舞台制作に関わる様々なことを学んで活動し、竹本などの音楽はプロの方にご助演いただきました。私は役者として、様々な演目に出演しました。本番が近くなると45日間毎日稽古をして、本番の1週間前ぐらいになると、音楽の助演の方を呼んで下浚い(本番さながらの稽古)を行います。それまでの稽古ではテープの音源を使っていて、下浚いで初めて生音に合わせるので、とても感動します。テープの間で覚えていたら、生音では合わなくなったり、逆にテープに合わせて上手にできなかったところが生音だとできるようになったりして、生の歌舞伎音楽の良さを実感しました。三味線の音に合わせて芝居をするのが大変楽しかったです。
Q. 学生時代は役者をやっていたのですね。竹本はお稽古していましたか?
A. 大学4年生の冬から、サークルでお世話になっていた鶴澤弥吉師匠のもとでお稽古を始めました。。
Q. 大学を卒業した後は、どう過ごしていましたか?
A. 竹本研修生は2年に一度の募集で、卒業する年には研修生を募集していなかったので、サラリーマンとして就職しました。ですが、学生時代に三味線の音に合わせて芝居をした夢のような時間が忘れられず、いずれ歌舞伎の仕事をしたいという思いはありましたので、三味線の稽古を続けました。
社会人1年目の時に、竹本研修生の募集がありました。「挑戦してみたいのですがいかがでしょうか」と師匠に伺ったところ、「挑戦しなければ悔いが残るからやってみなさい」と背中を押していただきました。
Q. 研修生になる前に三味線の稽古をしていてよかったですか?
A. よかったと思います。他のお弟子さんたちのお稽古は楽しむことが一番の目的でしたが、私はプロになりたくて師匠に入門したので、そのために教えていただきました。仕事が終わったらすぐに稽古場に行き、他のお弟子さんのお稽古も全部聞きました。もちろん座布団は禁止で、ずっと床に正座しました。(研修生時代や現在もそうですが。)
《達成感に満ちた2年間》
Q. 研修生時代はどのような日々を過ごしていましたか?
A.朝から晩まで毎日研修に励み、休みの日も自習をするために研修室に通い、絶対に竹本の演奏者になるのだという覚悟を持って頑張りました。
Q. 研修生になってから適性審査まで(約半年間)は、太夫と三味線の専攻を決めずにどちらも稽古しますね。太夫になることは考えなかったのですか?
A. 私は声が高いので、太夫は向いていると思いませんでした。今思えば、これは勘違いですね。声が高い方が合う芝居や役もあるので、その人なりの長所を磨いていけばよいと思います。
Q. 研修は大変でしたか?
A. はじめのうちは1曲覚えるのに時間がかかりましたが、稽古を重ねた分だけ身についてきたからか、だんだん早く覚えられるようになりました。大変なことはありますが、いつか乗り切れることを信じて頑張ることが大事だと思います。頑張らせてくれる環境だったので、達成感に満ちた2年間でした。
《志があれば報われる》
Q. 研修生活は頑張らせてくれる環境だったということですが、修了してからはいかがですか?
A. 先輩方は後進に技芸を伝えたいという熱い思いを持った方が多く、とてもよく面倒をみてくださいます。先輩方をはじめ、周りの方々が力を貸してくださり、志があれば報われる 環境です。
Q. 竹本はどのような人に向いている仕事だと思いますか?
A. やりがいを求める人に合っていると思います。与えられた仕事をただ淡々とこなすのはもったいないです。伝統芸能の世界では、若手が新しい事に挑戦することは難しいと思われるかもしれませんが、筋を通せば、自分で考えて行動することを認めてもらえます。私は、役者さんから「一緒に歌舞伎のワークショップをやらないか」というお誘いを頂いたことがあり、先輩に相談したところ、「どんどんやりなさい!」と応援していただけました。
Q. 新しいことにもチャレンジできる環境なんですね!?
A. はい。新しいことといえば、令和2年から、日本俳優協会・伝統歌舞伎保存会のYouTubeチャンネル「歌舞伎ましょう」の動画編集を行っています。歌舞伎をはじめ、舞台芸術を取り巻く環境が変わってきている時代だからこそ、何ができるかを考え、もがいていかないといけないと思います。
《やみつきになる充実感》
Q. 歌舞伎は約1か月間興行が続きますが、毎月どのように過ごしていますか?
A. 本番期間中には、次の月の芝居の出番が決まり、稽古を始めます。稽古が始まった頃はやる気に満ちていますが、稽古すればするほど、できないところも見えてきて、本番直前には「どうしよう!?」という不安な気持ちになります。ところが、初日の幕があいて、だんだん手ごたえを感じるようになってきます。そして、千穐楽を迎える頃には、「またやりたい!!」という前向きな気持ちになるんです。こういう充実感を経験できる仕事は少ないと思います。やみつきになってしまいますね。
Q. 本番前にはやはり緊張するものなのですか?
A.特に初日と記録日(公演を記録するために、舞台を撮影する日)は緊張します。ですが、幕が開き、必死で弾いていると気持ちが安定してきます。
Q. 公演以外の時間は、どのようなことをしていますか?
A. 稽古をするほか、文楽の舞台など、「すごいな!」と思えるものに積極的に触れるようにしています。「すごい」と思うのは、自分がまだそこに達していないからと思います。そういうものを見て、モチベーションと、自分の中の芸の基準を高めていけるよう、心がけています。
Q. 竹本の仕事をすることについて、ご家族はどう思っていますか?
A. しょっちゅう舞台を見にくるわけではありませんが、応援してくれています。旅が多い仕事なので、家には迷惑をかけることがあると思いますが、理解してくれて有難いかぎりです。
《その人ならではの「色」を引き出したい!》
Q. 今後の目標を教えてください。
A. 俳優さんや太夫の方から、「あなただったら演じやすい、語りやすい」と言っていただけるような三味線弾きになりたいです。共演する方々の持っていらっしゃる「色」を魅力的に引き出せるようになれたら嬉しいです。
Q. 研修生を目指す人にメッセージをお願いします。
A.国立劇場の研修ほど、頑張りたい気持ちを応援してくれる環境はないと思います。研修で努力し続けることができたからこそ、竹本三味線の演奏を今も続けることができています。研修生になるかどうか迷っていたり、自分はスタートが遅いのではないかと考えている人にも、是非挑戦して欲しいです。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
Copyright (C) Japan Arts Council, All rights reserved.