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【5月文楽】十一代目豊竹若太夫襲名披露「前夜祭」の様子をご紹介

5月文楽公演初日の前日8日(水)に開催された十一代目豊竹若太夫襲名披露「前夜祭」。
ゲストに俳優の山村紅葉さん、司会に水谷彰宏アナウンサーをお迎えして、Aプロの襲名披露狂言『和田合戦女舞鶴』「市若初陣の段」のサスペンスとしての魅力に迫りました。


(左から)水谷彰宏アナウンサー、十一代目豊竹若太夫、山村紅葉

◆◆◆

  • 『和田合戦女舞鶴』「市若初陣の段」とサスペンス

若太夫:登場人物全員の考え方が成立しているんですよ。与市っていうお父さんが心配で来ている。尼公(北条政子)も頼家の子供である自分の孫(公暁丸)を大切にしたい。そして、真ん中に板額がいる。3人がそれぞれに対照的ですよね。この語り分けがすごく難しいし、とても緊張感に満ちた展開ですね。


『和田合戦女舞鶴』市若初陣の段

水谷 :紅葉さんは、サスペンスの作品に出演されていると、自分の台詞が、実は物語の解決につながってくる重要な台詞であることもありますよね。そういうときは思い入れを強くしてお話しになるんですか。

紅葉 :そうですね。思い入れも強くしますし、はっきりと聞き取れるように伝えることも大事かなと思います。あるいは、サスペンスは犯人が嘘を言っている場合も多いのですが、その時点で見抜かれたら困るけど、後から考えたら「あぁ、やっぱりそうだったんだ」と納得させなきゃいけない。難しいせめぎあいですよね。

水谷 :『和田合戦女舞鶴』「市若初陣の段」はいかがですか。ここまでのストーリーの展開ってサスペンスにそうないですよね。

紅葉 :そうですね。しかもこれが書かれた当時って、あんまり世界的にサスペンスがたくさん書かれていないのかなって。

若太夫:作者の並木宗輔が書いたのが約300年前でしょ。エドガー・アラン・ポーやアガサ・クリスティーよりもずいぶん前。その時にこういう密室の一人芝居を作ったのはすごいなと思いますね。

水谷 :『和田合戦女舞鶴』ができたのが元文元年(1736)ということで、「元文」の前が「享保」なんですね。「享保の改革」で世の中が緊縮となり、それがきっかけで武士の世界から商人が出てくる時代ですかね。ですから、私の想像からすると、並木宗輔は前の時代の武家社会のノスタルジーでこの作品を書いたんじゃないかなと思いました。享保は、近松門左衛門や新井白石、荻生徂徠も亡くなっていて、その時代の転換点で生まれてきたのがこの作品なのかなと思います。

若太夫:並木宗輔って見事やと思いますね。毎日語っていてストーリーのすごさを感じます。1時間で場面が展開していって飽きない。僕はこの演目を選んだ時に、「これ失敗したな。お客さんついてこないかな」と思ったんです。ところが、意外にお客さんがついてきてくれてね。

紅葉 :皆どんどん引き込まれている感じで、「あれ? この人本当のことを言っているのかな? 嘘のこと言っているのかな?」とか皆が頭の中に推理を巡らせていらっしゃって、どんどん前のめりになっていくというか、熱気を感じますね。寝ている人が一人もいない(笑)。

若太夫:北条政子もどないなってるんか分かってないんですよ。「ほんまは、板額が自分の息子に手柄さして、公暁丸を殺しに行くんちゃうか」と半信半疑なんですよ。自分が仕組んでんのに。「あの一人芝居は何しとんねん」ってね。

水谷 :それぞれの登場人物が本音を明かさない。自分の考えで動いてしまうので、運命としてはあらぬ方向展開していくわけですよね。ですから、皆さんも“サスペンス”としての視点で、『和田合戦女舞鶴』「市若初陣の段」をぜひご覧いただきたいですね。

 

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客席の皆様から熱い拍手をいただいて、「前夜祭」は幕となりました。
襲名披露の5月文楽公演へつながる盛り上がりとなった楽しいトークイベントを開催でき、ご参加いただきました皆様にあらためて感謝申し上げます。

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