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【8月舞踊公演「舞踊名作集Ⅲ」】「鳥獣戯画絵巻」稽古場リポート&特別インタビュー
大規模な改修工事のため、今年の10月末で一時閉場する初代国立劇場。8月より「初代国立劇場さよなら特別公演」と題して、集大成ともいえる公演を開催いたします。
初代国立劇場主催最後の舞踊公演「舞踊名作集Ⅲ」が、8月11日(金・祝)に国立劇場・大劇場にて上演されます。
中でもとりわけ大人数で踊る、【2時の部】の「鳥獣戯画絵巻」が目を引きます。
「鳥獣戯画絵巻」は、国立劇場の委嘱により、四世藤間勘右衛門(二代目尾上松緑)=演出、北條秀司=台本、藤の会=振付で、昭和45年9月に初演されました。新作舞踊でありながら、国立劇場小劇場で昼夜9回公演を行い、連日満員御礼の大評判となりました。この度、53年ぶりの再演として、話題となっています。今回は、初演時の振付を踏襲し、現在の藤間流家元・六世藤間勘右衞門=演出で、各流儀の舞踊家が集結して挑みます。暑い日が続く中、本番に向けて稽古が続いています。
この日見たのは「総踊り」の場面のお稽古。
猿軍団との戦いに勝利した蛙たちの歓喜の踊りに、狐や兎が加わって総踊りとなる、フィナーレを飾る場面です。
昔の記録や、舞台映像を元に、振付を一つ一つ確認していきます。次第に稽古にも熱が入ってまいります。
これらは「鳥獣戯画絵巻」のほんの一コマ。出演者それぞれが、忙しいスケジュールの合間を縫って、稽古を続けています。
どんな作品に仕上がるか。ご期待ください!
【特別インタビュー】 藤間秀嘉 初演時のエピソード、今回への意気込み
藤間秀嘉
53年ぶりの再演となる「鳥獣戯画絵巻」について、初演時にも女狐役で出演、今回は振付補導をつとめる藤間流の舞踊家・藤間秀嘉に、作品のことや初演の時のエピソードを伺いました。
―昭和45年9月初演時の上演プログラムに、『「鳥獣戯画絵巻」の開幕まで』という記録がございまして、お稽古風景の写真が掲載されているのですが、これはどちらですか?
藤間秀嘉(以下、秀嘉) : 家元さん(四世藤間勘右衛門師・二代目尾上松緑丈)のお稽古場ですね。紀尾井町のご自宅の風景です。
この写真に私は写っておりませんが、(写真右から)家元さんがいて、育てられた藤の会のメンバーの姿が写っておりますね。このときの振付は、藤之助さん、勘誉さん、豊之助さん、それから章作さんなど、藤の会の初期メンバーが中心になさっていらっしゃいました。こういう激しいものは立役の人が中心で、私は女方でしたから、自分の役回りのところ以外は、それほど深くは関わりませんでした。
―当時この作品に取り掛かると聞いて、どう思われましたか? また、「藤間勘右衛門=演出、藤の会=振付」とありますが、これだけの大きなものを初演の時にどんな風に作ってこられたのか、教えてください。
秀嘉 : 国宝の絵巻物で「鳥獣戯画絵巻」というものがある、ということは知っておりましたが、その作品が誰によって描かれたかとか、どういう経緯で制作されたかといったことは、資料が残っておりませんからよくわからないわけですね。だからこの公演の時には、北條秀司先生がいろいろ考えてお書きになって、家元さんとともに上野の東京国立博物館へ見学にもいかれています。今考えても、中々よく書けていると思います。こういうスケールの大きなものは、この作品以降誰もやっていないんじゃないかしら。ちょっとやそっとでできるもんじゃない。
当時、家元さんは軽井沢に別荘がありまして、そこへ私らもよく連れて行ってもらったものです。ですから、「鳥獣戯画絵巻」を上演するときも、昔からの言い方で言えば、まさに”一つ釜の飯”を食べて一致団結するという雰囲気がありました。家元の粋ですね。確か北條先生も軽井沢にいらした。振付のお話しをするのは、専ら振付チーフが担当しておりましたので、待機している間、私らは遊ばせてもらってました。ボーリングなんか行ったり。ただ、稽古になったら、私らも「これこうした方がいい」と意見しましたけどね。そういう感じで拵えたものです。皆で合宿したっていうのが大きいと思います。稽古場でやってるとどうしても急ぎますからね。軽井沢には、1週間ほど連れて行ってもらって出来た作品です。
―初演を踊られた秀嘉先生が、今回は振付補導というお立場で参加されていますが、お稽古をご覧になって、いかがですか?
秀嘉 : 私も責任があるから見せていただいていますけれども、私たちがやった時は、藤の会のメンバーだけでやりました。今回は、他流の方も大勢参加されている。そこが大きく違うところですね。
当時家元さんには「一緒ではダメだよ。踊りは合っても肚が違うんだよ、それぞれに」ってよく言われました。けれどもそれは中々できないもんです。踊りは1、2、3でよく揃います。揃うようにはなったけれども、まだカエルはカエル。でも、同じカエルでも個性が全部違うんです。そこを表現するのが難しいんですよ。
私らは女狐の役をやってましたけれども、一人ひとり違う女狐なんですよ。ただ女狐が4人出てるんじゃない。それぞれが違うと物が大きくなるんです。ただの群舞じゃありませんからね。振りを合わせつつ、自分っていうものを持つ。家元さんが「何を踊っても自分だよって。一緒になっちゃダメなんだ」っていうんです。みんな自分というものを持ってなきゃ。はみ出るんじゃなくて、振りは揃ってるんだけども、自分の個性と与えられたお役というものを大切にしていただきたいですね。
―「鳥獣戯画絵巻」の見どころを教えてください。
秀嘉 : 藤の会の一門は、やはり藤間勘右衛門師、尾上松緑丈の門下ですから、決して現代的にはなりません。あくまで日本舞踊の古典らしさを継承した踊りになっていると思います。振りをご覧になっても古風でしょ。さらに全体ご覧になってみればお分かりになると思いますけど、バラエティーに富んでますよ。そこに北條先生が、物語として一本筋を通してくれている。本当によく出来ています。
しかも、当時は録音した音源でしたが、今回は生演奏でやるんですよ。唄や三味線、囃子に加えて、太棹や箏、十七絃、ティンパニーまで入った大編成。こんな大掛かりな演奏ですから、初め生演奏で上演するとお伺いしたときは、びっくりしましたけど、活き活きした音楽で表現される舞台に、大変期待しております。今回の公演が後世に残るようなことになるといいですね。一観客としても楽しみです。
ーありがとうございました。
いよいよ間近に迫った初代国立劇場最後の舞踊公演「舞踊名作集Ⅲ」。
ぜひともお見逃しなく!
【公演情報】
8月舞踊公演「舞踊名作集Ⅲ」 公演の詳細はこちらから
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