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国立文楽劇場

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【6月文楽素浄瑠璃の会】素浄瑠璃で文楽作品の新たな魅力に出会う

舞台上手の出語り床で行う、太夫・三味線弾きによる義太夫の演奏を、舞台正面でお聞きいただく文楽素浄瑠璃の会。今年は6月29日(土)に開催に開催いたします。

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◆素浄瑠璃とは

「素浄瑠璃」を聴いたことはありますか? 文楽の公演を観たことはあるけど、素浄瑠璃は聴いたことはない、そもそもあまりよく分からないという方も多いのではないでしょうか。

「素浄瑠璃」の"浄瑠璃"とは、物語に節をつけて語る「語り物音楽」のことです。
浄瑠璃には清元や富本、常磐津、新内などの流派がありますが、人形浄瑠璃文楽で演奏される「義太夫節」はその浄瑠璃の流派の一つです。17世紀に大坂で竹本義太夫という太夫(語り手)が創始しました。
義太夫節は、各流派の中でも演劇性と音楽性を兼ね備えているところにその特色があります。

義太夫節は原則、太夫一名と三味線弾き一名で演奏されます。
太夫は、状況説明となる地の文も登場人物のセリフもすべて一人で語ります。老若男女それぞれのセリフを語り分け、その心情や物語の情景を語りで観客に伝えます。
義太夫節の演奏では、三味線の中でも一番棹が太く、胴も大きい「太棹三味線」が用いられます。太夫の語りにも負けないくらい大きくて、デーンとお腹に響くような低く太い音がします。義太夫節の三味線は語りの伴奏という訳ではありません。その音色で登場人物の感情の動きや物語の風景を描き出します。
太夫の語りと三味線の音がかけあうことで、物語に奥行きが生まれます。

「素浄瑠璃」とは、人形の芝居が伴わない、太夫と三味線のみの義太夫の演奏形式のことです。

◆素浄瑠璃の魅力

「人形がないと内容が分からないんじゃ……」、「言葉も難しいし、素浄瑠璃って楽しめなさそう……」
そんな風に思われる方がいらっしゃるかもしれません。ですが、素浄瑠璃には素浄瑠璃ならではの魅力や楽しみ方があるのです。

素浄瑠璃は、耳で聴いて頭の中で想像して楽しむ演劇です。
視覚情報がないので、登場人物の顔立ちや恰好、風景、場面を、自由に思い浮かべることで物語に深く入っていくことができます。頭の中で思い描いた世界は、自分の好みや経験が反映されているので、より親しみが持て、物語をじっくりと味わうことができます。

また、耳を澄ませて浄瑠璃に集中することで、太夫の息遣いや声の緩急・抑揚で壮大なドラマ性を感じることもできますし、三味線の一撥が、情景・心情をどのように表現しているのか一つ一つを味わうことができます。
加えて、聴くことに集中するので、詞章をより聞き取ることができます。義太夫節の詞章は江戸時代の言葉なので、現代の言葉に近いところがあり、古典の授業で習ったような古文と比べると分かりやすいです。ただし、掛詞などのレトリックがふんだんに使われているので、意味が理解しにくいところもあるかもしれませんが、詞章の一語一語を噛みしめて聴いてみてください。そのレトリックに気づくと、物語の解像度があがり、作品世界が広がっていきます。

素浄瑠璃だからこそ、物語をより深く楽しみ、義太夫節の新たな魅力を発見することができるのです。

◆作品紹介

今回の公演で上演する三演目をご紹介します。

『卅三間堂棟由来』「平太郎住家より木遣り音頭の段」竹本織太夫 鶴澤清馗
宝暦10年(1760)大坂豊竹座初演。熊野信仰と三十三間堂建立の由来を題材に、柳の精と人間との異類婚姻譚を絡ませたお話です。
熊野の柳の精であるお柳は横曾根平太郎と夫婦となり、二人の間にはみどり丸という息子もいます。実は平太郎は柳と連理の夫婦であった梛の木の生まれ変わりで、お柳とは前世からのつながりがあるのでした。
しかし、京都に建立される三十三間堂の棟木にするため、柳の木が伐られることになります。柳が伐られてしまえば、お柳も消えてしまいます。斧の音が響く中、お柳は涙ながらに正体を明かし、夫と子に別れを告げます。突然の別れに平太郎とみどり丸は……。
明治初期に二代竹本織太夫(六代綱太夫)が語って大当たりした本曲を、当代竹本織太夫が実弟の鶴澤清馗とともにつとめます。


竹本織太夫、鶴澤清馗(令和2年2月「若手素浄瑠璃の会」より)

『伊賀越道中双六』「沼津の段」竹本錣太夫 鶴澤藤蔵 ツレ 鶴澤清公
天明3年(1783)大坂竹本座初演。『妹背山婦女庭訓』などの作者近松半二の絶筆となった作品です。江戸時代に伊賀国上野(現三重県伊賀市)で起こった「伊賀越の仇討ち」を題材に、その仇討ちに関わる人々のドラマを描いた作品です。今回上演するのは、沼津宿を舞台に、幼いころに生き別れた親子の再会と別れを描いた場面です。
呉服屋十兵衛は東海道を西に向かう途中、荷持ちの平作・お米親子に出会い、彼らの家で一宿することになります。二人との会話の中で、十兵衛は平作が自分の実父であること、そして、妹お米の夫が、自分が助力する沢井又五郎を親の敵と狙う和田志津馬であることに気づきます。十兵衛が家を発った後、彼が息子と知った平作はそのあとを追いますが……。
生き別れた親子の、生涯にただ一度となる切ない邂逅と別離を切語り(太夫の最高格)の竹本錣太夫と鶴澤藤蔵が、ツレ弾きと胡弓を鶴澤清公がつとめます。


竹本錣太夫、鶴澤藤蔵(令和5年8月「文楽素浄瑠璃の会」より)

『菅原伝授手習鑑』「丞相名残の段」竹本千歳太夫 豊澤富助
延享3年(1746)大坂竹本座初演。菅原道真(作中では菅丞相)が藤原時平との政争の末、大宰府へ流罪となった事件を背景とした文楽三大名作の一つ『菅原伝授手習鑑』から、九州へ向かう菅丞相が立ち寄った河内国土師の里(現大阪府藤井寺市)の伯母の屋敷を舞台にした場面をお聞きいただきます。
菅丞相の伯母覚寿が、丞相との尽きぬ名残を惜しんでいるところに、迎えが来ます。覚寿の屋敷には、実の娘で丞相の養子となった苅屋姫がかくまわれていましたが、苅屋姫が丞相流罪のきっかけを作ったことから、覚寿は姫を会わせることなく丞相を見送りました。覚寿が苅屋姫の心を案じていると、娘の立田前の死骸が見つかります。犯人が婿の宿禰太郎と気づいた覚寿は、その手で娘の敵を討ち取りますが、その後、丞相を連れて行ったのが偽の使者だったことが分かります。しかし、奥の間から当の菅丞相が現れ……。
天神伝説を題材にした時代物の大曲を、切語りの竹本千歳太夫と豊澤富助がつとめます。


竹本千歳太夫、豊澤富助(令和5年8月「文楽素浄瑠璃の会」より)

今回上演の三作はいずれも親子の別れを描いています。
『卅三間堂棟由来』ではお柳とみどり丸、『伊賀越道中双六』では平作と十兵衛、『菅原伝授手習鑑』では菅丞相と苅屋姫、そして覚寿と立田前……。
子を想う親と親を慕う子、今も昔も変わらない親子の深い情愛が胸を打つ作品ぞろいです。

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人形浄瑠璃文楽座の太夫・三味線弾きによる演奏で、語り物音楽の魅力をご堪能いただく「文楽素浄瑠璃の会」。
素浄瑠璃を聴くことで、物語の理解が深まり、同じ作品を文楽で観た時により楽しめるようになるはず!

まだ素浄瑠璃を聴いたことがないという方も、6月29日「文楽素浄瑠璃の会」で素浄瑠璃デビューしてみませんか?
皆様のご来場をお待ちしております!

文楽素浄瑠璃の会
6月29日(土) 午前1時開演

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