文化庁文化芸術振興費補助金助成事業令和4年度助成事業事例集
公益財団法人千葉県文化振興財団 千葉県文化会館(助成金額:22,877千円)
左上:おやこdeオペラ、右上:若い芽のαコンサート、
左下:千葉県少年少女オーケストラ、右下:伝統芸能スコラ
公益財団法人千葉県文化振興財団は、「文化芸術を普及振興し県民の自主的文化活動を支援することにより、生きがいと潤いのある世界に開かれた文化県千葉の建設に寄与すること」を目的として設立され、「文化資源の活用」「新たな文化を掘り起こす」ことによって「千葉県に対する愛着や誇りを育み、活力に満ちた地域社会の形成に貢献する」ことを目指している。
当財団は、4つの県立文化会館、千葉県文化会館(千葉市・県中心部)、千葉県東総文化会館(旭市・県東部)、千葉県南総文化ホール(館山市・県南部)、青葉の森公園芸術文化ホール(千葉市・能舞台を有する)すべてを管理運営している。県下全域の文化振興を目指す上で、「4館連携事業」を中心に、また一方で各館の特色を活かした事業を実施して「顔が見える会館」づくりを行い、県・市町村・各市の文化振興財団・文化団体が一体となったオール千葉による事業展開を図っている。
言い換えれば、地域拠点となる施設を複数有する強みを発揮して、各地域の人材を含めた自然・産業など豊富な資源、歴史を積み重ねた伝統的文化等を点ではなく面で結ぶことで、立体的に事業群を構築して活動を行っている。
助成対象館の千葉県文化会館(以降当劇場と言う)は、県立文化会館のフラッグシップ館であり、その役割を果たすため、財団の経営計画に基き、令和3年度から令和7年度までの中期的な5年間に対し、「劇場」としてのミッション・ビジョンを設定している。
ミッション:
ちばの強みを生かした新しい「ちば文化」の創造
ビジョン:
「魅せる」「創造する」「広げる」劇場によって千葉県を元気にする
事業展開にあたっては、特にこれまでも心血を注いできた鑑賞機会の格差解消・文化芸術の担い手不足に焦点を当て、次項「●助成を受けて」で述べる地域特性・地域の課題・ニーズを導きの糸として設定した下記4つの戦略に基づき、事業展開を図った。
開館55周年記念に位置付けたラインナップを揃え、令和5年4月からの大規模改修による休館と改修後の幕開けを見据えた取組を並べた。公演、アウトリーチ、ワークショップ等「これまで」の劇場の歴史を振り返りつつ、千葉県が三方を「海」に囲まれ、自然豊かで東京に隣接しているという特徴を制作テーマや、プログラミング、編曲の委嘱に織り交ぜながら「これから」を表現した。
助成対象事業は合計15事業で、地域、障害の有無、年齢等に関わらず鑑賞機会を充実させることを念頭に「公演事業」を7事業、青少年の育成、文化芸術の担い手不足という地域社会課題の解決に挑む「人材養成事業」を3事業、様々な年代の方が文化芸術を体験・参加するきっかけとなるような機会を創出し、文化活動の裾野の拡大を目指す「普及啓発事業」を5事業実施した。
以下では、助成を受けた活動を総括しつつ、その特徴とともに紹介したい。
①障がいの有無、年齢、性別、国籍、地域、生活環境などに関わらず、誰もが等しく文化芸術に親しむ機会の充実を図った。当劇場が中心となり「4館連携」、「オール千葉連携」(●助成の意義で図解)を仕掛け、「『普及啓発事業』で創客の種をまき、やがて『公演事業』に運んでいただける」よう助成2部門を表裏一体のストーリー仕立てで形成。
「音の響きが良い」という劇場の特性を生かして、コロナ禍によって打撃を受けた合唱や声楽を復活させることを狙った実力と人気を兼ね備えた歌手たちによるリサイタル、世界最高峰の管楽器アンサンブル、千葉交響楽団の特別演奏会など音楽を中心とした事業群を組み立てつつ、特定の分野に偏ることなく、文化芸術に親しむための多様なチャンネルを設けた。
例えば、日本を代表する弦楽四重奏団や邦楽の四重奏団によるコンサートは、県立文化会館に加えて、県内各市の文化施設での地域公演や「ちば文化資産」(県民の投票によって選出された、多様で豊かなちば文化の魅力を伝える伝統文化や自然、観光地など)県内中学校でのアウトリーチなど多彩なアプローチにより県民が文化芸術に親しむ機会の充実を図った。
これらは、プログラミングや委嘱初演作品として「海」を取り入れた構成でちばの豊かな自然を想起させる仕掛けとした。
ほぼ全ての公演に、アンダー30のチケットや高校生以下の500円ワンコインチケットを設定。「仕事・育児・介護など忙しく鑑賞に出かける時間がない」というニーズに応え、若い保護者が気兼ねすることなく参加できるよう「0歳から入場可能」とした公演も多く取り入れた。例えば「おやこdeオペラ」はオペラ入門編として千葉の題材をふんだんに取り入れ、(本来であれば、小道具製作のワークショップや、舞台に上がってキャストとダンスを行う予定であったがコロナ禍により見送る)「とにかく『楽しい』オリジナル作品」の制作にこだわった。
②次世代への文化芸術の「創造・発展・継承」を目指した‘人づくり’を行い、文化芸術活動を活発に行う基盤をつくり、活動を通じて様々な形で地域社会への参加を促進し、地域のコミュニティ形成にも大きな役割を果たせる人材養成に努めた。
「千葉県少年少女オーケストラ」は、県レベルでは全国初の少年少女によるオーケストラとして1996年に結成。佐治薫子音楽監督のもと「良い音で良い演奏を」をモットーに当館を活動拠点として、国内外で活躍する一流の指揮者や国内主要オーケストラの奏者をトレーナーに迎え、年間約100回の練習を行い、定期公演をはじめ様々な公演を開催した。演奏技術だけでなく、音楽を通じて人間性を身につけることを柱にして、一人一人が正しい音程で美しい音を出せるまで繰り返し練習し、音を合わせてハーモニーを奏でる楽しさを学んでいる。
1年間の集大成である3月26日の定期公演では、ソリスト神尾真由子氏のSNSでも「演奏の優秀さと ’礼儀正しさ’」についてお褒めの言葉をいただくなど、演奏技術のクォリティを高め、人材養成事業としての結果を残すことができた。
なお、公演は千葉テレビ放送やNHK千葉放送局の協力を得て、会場に足を運ぶことが出来ない方にも楽しんでいただき、その魅力を県内外にも広く発信することができた。
「若い芽のαコンサート」は、県民の日(6月15日)にちなむ公演で、千葉県出身、在住などの若手演奏家がプロオケの千葉交響楽団と共演する育成型公演である。
「伝統芸能スコラ」は、歌舞伎をテーマとした体験型コンサートで、子どもたちが自らパフォーマンスや太鼓や鼓の演奏体験をしながら伝統芸能について学ぶ新企画。
「県の文化調査」では地域の課題が、大きく2つが挙げられている。これらの課題の解決は一朝一夕にはいかず、振興会の助成が不可欠である。
PDCAサイクルの実践(自己評価や改善)にあたっては、振興会プログラムディレクターやプログラムオフィサーによる助言が極めて有効であった。
当劇場は、令和5年4月からの大規模改修によって、休館となっている。令和4年度は55周年の記念イヤーであると同時に、来るべき改修による閉館に備える年でもあり、一層他の県立文化施設、地域の施設等との連携を強めながら文化振興を推進する必要があった。例えば「千葉県少年少女オーケストラ」の活動をはじめ拠点を失うリスクを負っていたが、ピンチをチャンスに変える逆転の発想で、地域に積極的に出向く姿勢で臨むことができた。そのことが発信力を高め、令和5年度東京公演の企画や、新たな企業メセナ、寄付に繋がり、新境地の開拓にはずみをつけることに繋がった。
振興会の助成を受けて、当劇場が中心となって担う「全県域の文化振興」、「誰もが文化芸術を享受できる環境づくり」「新たな文化芸術の担い手の育成」が向上した。
「4館連携事業」による県立文化会館の有機的な結びつきをはじめ、「ちば文化振興ネットワーク協議会」(※1)や「市町」との連携による互いの強みを発揮した相乗効果(オール千葉の連携)によって全県域を網羅した文化振興が充実した。
(※1)県内12市の文化振興財団が個々に持つ専門的ノウハウや経験、情報をネットワーク化し、合同で文化事業・広報活動を行い、県全体の文化振興の向上を図る機関。
28年におよぶ千葉県少年少女オーケストラの活動は地域・国境・世代を超えて多くの人々に感動を与え、文化芸術への関心と理解を深める役割を果たし「千葉の誇り」と賞されるように成長した。こうした発展の礎となっているのは、卒団生が指導者となり後輩の指導に当たることや演奏家として活躍することで、学びの継承や音楽活動のよりよい「循環」を形成しているからと考えている。
【「循環」のイメージ】
近年は、サントリーホール公演の成功など全国への発信力を高めていることもさることながら、令和3年度は県立の会館をライブビューイングで繋ぐ公演を実施、令和4年度は会場を入れ替えての開催、という様に「循環」による文化芸術と人の交流を図った。さらに離れた空間で地元少年少女合唱団と共演する演出を取り入れるなど、デジタル技術を駆使した新しい交流に挑んだ。
【主な効果】
若者及び専門人材の育成は、上図のように人(子どもから大人までいつまでも途切れることなく)が「回転」「循環」しながら成長していくイメージで人材養成を行っている。
例えば、少年少女オーケストラ出身のホルン奏者が令和5年度の「若い芽のαコンサート」に出演。[少年少女オーケストラ→国内外のコンクール受賞→「若い芽(プロの楽団とコンチェルト)」→「プロとしてのステップアップ」]というサイクルを実践している。
以上、助成を受けることで、時間や空間(地域)を「循環」させることにより千葉県の文化振興を図る手法を確立することができ、それが年々ステップアップしている。
多様な価値観を認め、あらゆる人々が生き生きと暮らせる共生社会の実現を目指すために、劇場が果たすべき役割は極めて大きいと考える。
ますます高い専門性が求められていると同時に、もはや劇場は、専門劇場かそれ以外か(多目的ホールなど)という括りだけで語ることができない。劇場をとりまく状況は大きく変わり、急加速で変革が迫っていると感じている。
当劇場が設定したミッションは、言い換えれば「新たな文化芸術の価値を創造できる社会づくり」ということになるが、公の施設として「創造的活動は社会構築をベースにしている」ことを肝に命じている。
そのスキームとしては「●助成の意義」で述べた当劇場をリーダーとして各連携により、県民に等しく文化芸術に触れる機会をより多く設けること、そして鑑賞機会等の地域格差といった地域課題の解消が肝要と考えており、今後連携はさらに強まり、地域への波及効果も大きくなっていくことが期待できる。
例えば、令和4年度は23の市町村とコラボレーションを行い、伝統芸能やミュージカル、クラシック音楽までジャンルを網羅しながら、県民ニーズの高い公演を県内全域で開催できている。特に2~4年で県内を巡回するなど複数年かけた立体的な公演を実施することが可能となり、県民に等しく文化芸術に触れる機会を提供でき、鑑賞機会の地域格差が解消されてきていると肌で感じる。
また、将来の文化芸術を担う若者が県内全域で同様の体験を味わい、文化芸術に対する興味や関心を高められる。こうした活動により、安全な取組みや技術力の高さが、企業や団体等から名実とともに評価され、連携や協力関係が一層芽生えてきている。
ある意味では、当劇場が(たまたま)代表格を担って、その背後には千葉県のあらゆる文化機関が繋がっていて、最早一体とさえいえる良好な関係で文化振興が図られつつあると考えている。
専門家集団であると同時に、ジョブ・ローテーションによって職員が施設管理や総務の業務、企画・立案の業務、さらには舞台技術業務を経験することによって、総合的な劇場マネジメントの能力を養っていることも強みであると考える。
・「音楽」「演劇」「舞踊」「伝統芸能」の各分野に精通した職員を揃え、舞台関係の有資格者(舞台機構調整技能(音響)や1級照明技術者、1級劇場技術者)も配置して、幅広い分野やジャンルの企画制作を行っている。
なお、あくまでも職員と伴走しながら助言を行い、職員自らが専門性を高め、組織活動を発展させることを目的とし、外部から「専門家」によるアドバイザーを招へい。伝統芸能、演劇分野から起用。事業企画に反映している。今後は舞踊分野を起用するなどさらに分野を拡大予定。また次の6ジャンルからもPDCAサイクル実践のために専門家を集め、活発な視察・意見交換・研修を行っている。
「劇場・音楽堂は人材により成り立つ」「一人ひとりが、千葉県の文化振興を担うプロフェッショナルである」という共通認識のもと、人材育成と組織の活性化に特に注力している。OJT、OFFJT両面からスキルアップを図り職位やキャリアに応じた研修、舞台技術の資格取得、アートマネジメント知識の向上や緊急対応能力の向上にも努めた。これら研修等の実施は55メニュー、参加人数は延べ217名に及んだ。若い職員が増え世代交代が進む中、先輩職員が後輩職員をサポートするメンター制度を本格始動させた。
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