文化庁文化芸術振興費補助金助成事業令和4年度助成事業事例集
公益社団法人落語芸術協会(助成金額:41,913千円)
公益社団法人落語芸術協会は昭和5年発足当時から都内の「寄席」を中心に、伝統芸能であり大衆芸能でもある「落語」と漫才や太神楽曲芸・奇術などの「色物」といった「寄席芸能」を継承、普及することを目的に活動してきました。現在は250名を超える協会員が所属し、全国さらには世界にも目を向けて寄席芸能の更なる発展に尽力しています。
その昔は町内に1つはあったと言われる「寄席」も、現在は都内に数か所365日興行する定席が残る程度。特に地方においてはその鑑賞機会は少なく、テレビの長寿番組「笑点」が「落語」と認識されています。実際の寄席芸能は、前座、二ツ目、色物、真打と呼ばれる階級の出演者が次から次へと上がり客席の反応を見ながら演目を瞬時に選ぶ、高座と客席との双方向のライブ感が醍醐味です。
岩手県宮古市では東日本大震災以降「笑い」で心を元気にしてもらおうと公演を重ねてきたことで、地方の中でも落語を聴く土壌ができていました。東北では宮城県仙台市に「花座」という定席が5年前に開場しましたが、その炎を灯したまま同じ東北で宮古市にも寄席演芸を根付かせようと年2回の寄席公演に取り組んでいます。地方で生の寄席演芸を見て・聞いて・体感してもらうことを一番に、継続的な公演を行うことで文化活動そのものの促進を図ることも視野に入れています。
助成を受けたことで、大衆芸能ならではの来場しやすい入場料と地方でも誘客しやすい出演者のバランスを取ることができていると考えています。以前は収益化は大切な事ながら、地方公演では会場までの交通費などで経費がかかり必然的に入場料が高額になりがちでした。しかし自己努力では難しい側面も、1/2の助成を受けることで金銭的負担を軽くすることができました。震災復興をきっかけに醸成されてきた寄席芸能鑑賞への土壌を耕しし続けるためにも、助成を活用していこうという考えにいたりました。これは社会における文化芸術の公益性にも繋がることです。
コロナ禍は特に高齢者の多い地方では人の流れが止まり、集客が厳しい時期でもありました。そうした中だったからこそ、「生の舞台」を観ることを渇望していた市民が公演に足を運び大いに笑い泣いた様は、収支や新型コロナウィルスを理由に寄席公演の継続を断念しなくて良かったと思わせる光景でした。
都内の寄席さながらに生のお囃子を入れて臨場感を出せていることは、助成の意義を強く感じられる点です。来場者アンケートでも、「落語は聴いたことがあったが出囃子も生で聴けるとは思わなかった」という声が毎回寄せられています。寄席囃子があることで同時に太鼓も叩くことになり、開場時の一番太鼓、二番太鼓、終演時は追出太鼓まで生音で届けられます。CDを使った音とは比べ物にならない迫力と高揚感は「また次も来よう」とリピーターを生む一助にもなっています。出演者もより自由な高座ができるため落語の後に“かっぽれ”や“藤娘”を踊ることもあり、そうした工夫が来場者の満足度にも繋がっています。
定期的に安定して継続開催できることで、地元の協力体制が強固になっていることも挙げられます。次回公演の日取りや会場確保、地域の動向を見ているからこその客席設定や入場料への助言は、一見では成立しない関係性と感謝しています。助成の意義は陰ながらそうした運営面でも非常に意義があると感じています。
今後宮古市ではさらなる安定した集客と、そのためにも若年層への普及を努めていきたいと思っています。学校への落語ワークショップなどをタイミング良く展開し公演に繋げるほか、車社会でもある地方において車を出してくれる保護者と一緒に鑑賞できるような「家族割」なども展開していくつもりです。
東北は宮城県に定席ができたり、岩手県で定期開催の寄席公演があったりと、少しずつ普及してきた寄席演芸の種が芽吹いてきています。今後さらに北上し、青森県へも種を蒔きに行こうと展望しています。ゴールのない道ながら、老若男女が1つの会場・1つの落語で大笑いできる寄席芸能を引き続きくまなく普及していく所存です。
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