芸術文化振興基金助成事業令和4年度助成事業事例集
日本茜伝承プロジェクトチーム(助成金額:2,000千円)
日本茜を中心とする染料植物の栽培と染色方法の研究をしています。農業者と工芸者両方が集うのが特徴です。
伝統工芸がほとんど化学染料になる中、途絶えてしまった植物染を復活させる試みをしています。
本プロジェクトでは、京鹿子娘道成寺や伊達娘恋緋鹿子のお七、新版歌祭文のお染、妹背山婦女庭訓のお三輪などに使われる町娘の衣裳、染め分け麻の葉絞りの衣裳を藍と茜で復元し、その過程を録画し記録をとりました。
途絶えてしまった日本茜の染め方を知るには「復元」という作業が一番効果があります。また文楽の衣裳は空襲でほとんど焼けており、現在使われている衣裳は化学染料のプリント製の着物です。本来の文楽の衣裳はどんなだったのだろう?大正期までは確実に残っていた伝統の色の世界を再現したい。その思いから昔の浮世絵などを参考に本来の色味、その色を出すための工夫、染め分けの技術などを研究しました。まるで江戸時代の職人さんと対話しながら進めているような楽しい作業でした。
本プロジェクトで作られた記録映像はユーチューブでアップされており、世界中からアクセスがあります。また復元衣装は「使われてこそ用の美」という考えで、展示や公演に積極的に貸し出しています。これが思わぬ効果を生んでいます。文楽のレクチャー公演では、文楽好き以外の植物染に興味がある方が参加し、それを機会に古典芸能に興味をもつきっかけになったりしています。逆もまたしかりです。文楽の方々には復元衣装を使うことで、文楽の公演の依頼が増えたと喜んでいただいております。
文化というのは分子に振動が伝わり、波になり流れができるのだということが小規模ながら実感できました。また海外の方が植物染料や日本の伝統工芸に関心をもたれていることも驚きでした。
申請をした時には任意団体だったのですが、今年「一般社団法人日本茜伝承プロジェクト」となりました。今後も伝統芸能とコラボした復元作業、たとえば能の衣裳の復元や創作などをやってみたいと思っています。失われつつある職人の手技も記録として残していきたいです。また後ろを振り返るだけではなく、新しく学びたい人と職人さん達とをつないでいくような講座ができればと考えています。
Copyright (C) Japan Arts Council, All rights reserved.