「妖しかりけるーーーーーーー‼」
増補大江山、幕切れ。
舞台上の渡辺綱と悪鬼が、黒雲の上で戦い、睨みあう。
舞台右手には、ずらりと並んだ太夫さんが迫真の大絶叫。
大人の本気に、満場の子供たちは圧倒されつつも、身動ぎひとつせず、舞台に見入っていた。
私は、舞台そのものに感激しつつ、場内の空気間に、特に子供たちの様子に、
うれしくてなりませんでした。
夏休み特別文楽公演、第一部の親子劇場を拝見。
他の仕事との時間の都合で午前中しか伺えず、子供たちの中に、大人一人で乗り込んでいきました。
夏休み、会場内は親子連れ、祖父母とお孫さん、といったお客様で満席。
赤ちゃんもいる。いっぱい、いる。
普段の様子とはちがって、ロビーを元気よく走りまわる子供たち。
あのスピードで移動される方を通常の公演時ではなかなかお見かけしないので、新鮮。
今日は、子供パラダイスなので、走っちゃだめよ!なんていって叱られることもない。
劇場はこのところお祝い事で賑々しい雰囲気が続いていたけれど、それとは違うパワーに満ちていて、なんだかいるだけで元気が出る。
開演前の客席で、すでに繰り広げられている様々にも頬が緩む。
小学生男子、自分で指定席を見つけて座りご満悦の様子。後から追いついてきたばぁばに、元気に「こっちだよー!」と手を振っている。
隣の席の友達同士、お互いにオペラグラスで見合って「わー!」「でっかい!」
安定感抜群の、こどもらしさ。みんな元気だ。
さぁ。。。果たして、彼らはおとなしく舞台を観ていられるのだろうか。。。
期待と不安が入り混じりながら私も席に着いた。
そして開演。
まずは「瓜子姫とアマンジャク」
暗転。おぉ、ここから普段とちがう。
きゃっきゃと騒いでいた子供たちが、すん、と静かになり、注目する。
照明効果で視点を定めやすくしてあり、工夫が凝らされている。
山の中で樵の男が焚火をしている場面。
「ほんまに焚火してんの?」とママにそっと質問する子。
行われていることをピュアな視線で観ているんだなぁ。
舞台演出だから、と当たり前に観るようになっている自分に気付かされる。
山父と呼ばれる一本足、一つ目の妖怪が登場。
ぎゃぁぁっぁー。と、あちらこちらで泣き叫ぶ声。
おそらく、毎日、幼児の泣きポイントなのでしょう。
一つ目がピカー!と光るギミックに場内、大きなどよめきが起きる。
セリフに合わせた人形の首の動きで、大爆笑。
私の前に座っている少年も食い入るように見入っている。
アマンジャクが瓜子姫に化けるところは、人形の醍醐味、仕掛けは想像がつくけれど、やはり、「おおぅ!」と感嘆の声を漏らしてしまう。
タネや仕掛けを読み解くような観方をしない子供たち、なおのこと「おおおっ!」である。
瓜子姫にばけたアマンジャク、めちゃくちゃに機織りする姿がかわいらしい。
お芝居の最後には、劇場の壁の仕掛けからアマンジャクが顔をのぞかせて、「バイバーイ!」と手を振ると、場内の子供たちは、もうアマンジャクとお友達だ。大きな声でバイバーイ!と精いっぱい手を振って、おわかれ。
解説「文楽ってなぁに?」は、吉田玉誉さんが、絶妙なトークで和やかに進んでいく。
体験コーナーでは3人のお子さんが舞台上に。黒衣を羽織り、いざ人形遣いにチャレンジ。
本物の文楽人形は子供たちより大きい!ので、ちいさいお人形で挑戦。
子供たちは「むずかしかった。。。」と少々へこみ気味のコメントでしたが、お土産をもらって、ご機嫌で席に戻っていく。
コーナー全体を通して、玉誉さんのご対応が、子供扱いせず、礼を尽くした様子であったのがとても好印象でした。
さて、休憩時間!
お席やロビーでお弁当をひろげていただきまーす。
さながら室内型ピクニック、この酷暑には最高かもしれない。
休憩中に飴を買ってもらった男の子、お母さまから、観劇中にはビニールの音をたてないようにネ、とマナーを教わっている。
大人と子供が混じって同じ舞台を観るのは、お互いに学びがあるようです。
「親子劇場」と聞くと、何となく気後れしてしまったけれど、来てよかった。
ロビーでは西日本豪雨災害の義援金の呼びかけにアマンジャク人形が、登場していた。
写真が撮れたり握手出来たり。
子供たちもすすんで募金をしていました。
ロビーではお着物姿の女性も多く見受けられ、大人一人で来場してるのは私だけではなかったのだ!と勝手に仲間意識を持ったり、していると、あっという間に開演ベル。
「増補大江山 戻り橋の段」、先ほどの流れで、普段よりも解りやすいようにいくのだろう、と思っていたら。。。
はい、普通に、
「それ普天の下卒土の浜、王土にあらぬ処なきにいづくに妖魔の住みけるか・・・」
え、それ、わかんないよね、子供たち、わかんなよね?
と、一瞬たじろいでしまった私。
ところが、子供たち、舞台で起こっていることに注視している。
すごい。。。わからないことに対して怯まない、子供たちの集中力。
好奇心を持ってみつめている。
ストーリーは渡辺綱の鬼退治で、シンプルではあるけれど、文言は普段の演目と同じ。
お人形の顔が美女から鬼にカパッと変わったりするケレンもたくさんあって、楽しみどころはたくさんあるけど、子供たちは、理解しようとするのではなく、舞台のエネルギーそのものをみつめていたように思う。
なんてことを思いながら観劇していたけれど、美女が本性を顕し、悪鬼の姿になってからは、そんなことを思う暇もなくただただ、楽しく魅了されてしまった。
華やかな展開、力強い戦いぶり。黒雲が立ち現れ、二人は雲の上から睨みあう。
そして、幕切れ。
「妖しかりけるーーーーーーー!」
4人の太夫さんの声に、すさまじさを感じる。
これは、「大人の、本気。」だと思った。
そしてそれはきっと、ちいさな心にも、伝わるものがあったのだと思う。
会場を後にする子供たちの笑顔がとても素敵だったから。
■たきいみき
舞台女優。大阪生まれ。
主演作に「黒蜥蜴」「ふたりの女」「夜叉ヶ池」(演出:宮城總)、「令嬢ジュリー」(演出:フレデリック・フィスバック)など。野田秀樹作、オン・ケンセン演出「三代目、りちゃあど」では歌舞伎や狂言、バリ伝統影絵などジャンルを超えたメンバーと共演の他、クロード・レジ「室内」、オマール・ポラス「ドン・ファン」など、海外の演出家とのクリエーション作品も多数。
(第一部『瓜子姫とあまんじゃく』解説「文楽ってなあに?」『増補大江山』観劇)
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