六代目豊竹呂太夫ご襲名おめでとうございます。
初日のこの日は花曇りの空の下。
正面入り口には満開の桜の花と「六代目豊竹呂太夫」の幟が色鮮やかで、うきうきする。
二階へとエスカレーターで上がっていくと、遠くロビーに呂太夫さんの等身大パネル発見。
・・・と、思いきや。
「う、動いた!」
なんとご本人様がいらっしゃる。
「おしやしんよろしいですか?(緊張のため、カタコト)」と勇気を振り絞って話しかけると、
「一緒に撮りましょ!」となんとも気さくにご対応くださった。うれしい。
呂太夫ご自身がいらっしゃったり、お客様もお着物姿の方が多く、ロビーにも花が咲いていた。
うれしい空気は、身体も細胞から活性化するような気がする。
襲名披露の口上では各部門の大師匠方が会場に笑いの渦を巻き起こしつつ、
グッと胸に来るひとことがあったり、皆様、お話がお上手!
昼夜と続けて観劇したので、この日は7時間くらい文楽劇場の座席にすわっていた。
飛行機だったらちょっとした国まで旅行出来るなぁ、とおもいつつ、
この時間、あっという間に過ぎて、素敵な場所に連れて行ってくれたように思う。
私事で申し訳ないのですが、先月末にルーマニアのブカレスト国立劇場で「ラ・バヤデール」(演出・金森穣、戯曲・平田オリザ)公演をさせていただいた。
日本国内ツアーでは各地で何ステージも公演して、何度もしゃべったセリフ。
5つの民族がアジアの草原に帝国を打ち立てようとするもわずか13年で崩壊する物語。
私は帝国の為に政略結婚を受け入れる皇女を演じさせていただいた。
不思議に感じたのは、クライマックスの場面。日本での公演と全く違った。
観客の空気が私を動かしてくれたような、今まで感じたことのない感覚に終演後、少しぼんやりとした。
終わってから考えると、物語中の民族のようにルーマニアも侵略下の歴史を生きてきた。
もしかしたらルーマニアの人々がつくる生きた空気が、皇女のセリフとリンクして、
私の肉体や声をつかって、その場所に残存する想いを形にしたのかもしれない。
その場所の空気が、その夜の芝居を作ったように感じた。
これとは状況は違えども、4月8日は「空気」がつくる公演を拝見したように思う。
今回は、「菅原伝授手習鑑」、「曾根崎心中」と、号泣必至の演目が並んでる。
正直、困るんです。終演間際に滂沱の涙では、ぐちゃぐちゃの顔で席を立たねばならない。
現代劇ならカーテンコールがあり、多少落ち着く時間もあるのだけど、文楽はそうもいかない。
すぐに場内が明るくなって、皆様、席を立たれる。
あまりに泣きすぎて、「あ、あーゆーおーらい?」と隣の席の外国の方に引かれたことがある。
桜丸切腹の段の「泣くない」「ア、アイ」「泣きやんないナァ」なんて、もう、
「押すなよ、ぜったい押すなよ」ですよ。号泣間違いなし。
寺子屋の子供たちの様子が可愛くて笑えて、反動でそのあと、泣ける。
松王丸夫妻の白装束の白さにますます哀しくなるし、
徳兵衛がポトリ、と落とす刀の一瞬の閃光に胸を打たれる。
今回だって、たっぷり、泣きました。
でも、でも。
でも!
襲名披露の目出度い空気に包まれているからなのか、哀しいばかりではない、
なにか、力強い、晴れやかなものが漲っていた。
何度も拝見しているお芝居なのに、なんだか、いつもとは違うふうに見ることが出来た。
もちろん見るこちら側の気分も普段よりも格段に華やいでいる。
劇場全体が寿ぎのムードにあふれていた。
観客席の空気と、演者のパワーと、物語中の登場人物たちの生きる力があいまった為かもしれない。
呂太夫襲名披露ということで、太夫陣が特にエネルギッシュであったように思う。
そして、祝うように人形が舞い、三味線が寄り添い、舞台がきらめいていたように思う。
開演前には嶋太夫さん、終演後には住太夫さんのお元気そうなお姿もロビーでお見かけでき、
うれしさ倍増。
もしかしたら、歴代呂太夫の師匠方はじめ、文楽の歴史を紡いでこられた、たくさんの師匠方も会場にいらしていたのかもしれない。
末永く、文楽が栄えますように。
■たきいみき
舞台女優。大阪生まれ。
主演作に「黒蜥蜴」「ふたりの女」「夜叉ヶ池」(演出:宮城總)、「令嬢ジュリー」(演出:フレデリック・フィスバック)など。野田秀樹作、オン・ケンセン演出「三代目、りちゃあど」では歌舞伎や狂言、バリ伝統影絵などジャンルを超えたメンバーと共演の他、クロード・レジ「室内」、オマール・ポラス「ドン・ファン」など、海外の演出家とのクリエーション作品も多数。
(2017年4月8日第一部『寿柱立万歳』『菅原伝授手習鑑』『襲名披露口上』、
第二部『楠昔噺』『曾根崎心中』観劇)
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