こんにちは文楽ドシロートのイラストレーターの多田、二度目の登場でございます。前回に続き、繰り返しお断りさせて頂きますが、日本文化の教養かぎりなくゼロ!でございます!ですのでシロート発言、平にご容赦くださいね。舞台を見に行くと大概寝てしまいます。子持ちで仕事をしてるとなかなか睡眠足りないのでございます。というより子を持つ以前から圧倒的に集中力と読解力が足りないのでございます!
ですが、「予期せぬ方から文楽の裾野を広げるお手伝いになれば」と、またまたノコノコと鑑賞にでかけて感想を述べさせて頂くことになりまして、嬉し恥ずかしですが、どうぞよろしくおねがいします。
前回、夏休み親子劇場でスペクタクルアクション活劇「金太郎の大ぐも退治」で文楽鑑賞デビューしました。感覚がほぼ子供のわたくし37才はこの演目を、そして初めての文楽を200%(当社比)楽しんだのですが、今回は息子を置いて一人、オトナの文楽へ…。初春公演の第二部「面売り」「近頃河原の達引」「壇浦兜軍旗」を見に京都から大阪日本橋の文楽劇場へ急ぎました。
急ぎましたと書きましたが、例によってまたも遅刻をしてしまいました。大阪駅に着いたのは早かったのに、お弁当のおにぎりを「鮭いくら250円」にするか、「玄米120円」にするか悩んでたら(結局安くてヘルシーな方を選択)。5分おくれで劇場に到着しました。舞台にはすでに男子の人形と女子の人形が小気味の良いリズムで会話を弾ませております!ほうほうこれが「面売り」ですね!
着席し、ノートをひろげ、右手の「床」の方を見たら…ざーん!ギッシリ!!
舞台には2人分のお人形しかいないのに!大夫さんも三味線さんもギッシリいます!!数を数えるのを忘れてしまいましたが「サッカーできるっしょ!」と感じたのでおそらく11人以上いたと思います。
それもそのはず、この「面売り」は景事という、ストーリーより音楽や踊りがメインの演目だそうです。この二人の掛け合い、さながらフリースタイルラップバトル!そのぎっしり大夫&三味線の他に太鼓や笛やチャンチキみたいのも聞こえてきます。姿は見えませんがおそらく下手の黒い布の向こうにいらっしゃるようです。
人形男子の方は「おしゃべり案山子」という「説いて商う品物は、ただこの口と、この扇」というしゃべりの大道芸人。良いですね~身軽で!仕入れとか在庫とか返品とか気にしなくていいもんね。やはり物は持たないにかぎるよ、と思ったところ、見れば人形遣さんは「おしゃべり案山子」氏の手に扇をもたせています。人形を動かすだけでも大変だろうに小道具まで使うなんてさぞかし大変では…とシロートがいらぬ心配をします。
そして女子は「孝行娘と評判の、年も憎めぬつづ褄からげ、踊る姿は羽衣天女」当世流行の「面売り娘」さんです。
さてそんな二人が出会って、おしゃべり案山子がこう言います。「物は相談ぢゃが、そなたのその面商売に、わしが商売さし荷ひ、どうぢゃ一肩乗らせぬか」。出会うやいなやいきなりビジネスパートナーに名乗りです。業務提携。
そして面売り娘も相手が「あの!今全土で話題沸騰の!」と言う感じで「そんならこなたがおしゃべり殿か、(略)さう願へれば更にまた、猶この面が売れよかろ」と、テンポ良く快諾。しかしおしゃべり案山子さんへの呼び方、「おしゃべり殿」って。「案山子」が重要(と私は思う)なのに。劇団ひとりにむかって「劇団さん」ていう感じになってませんか?娘さん。
ともあれ出会ってまだ数分にもかかわらず、
「わしが喋ってそなたが踊る」
「お前が歌へば、わたしが拍子」
「一本立ちより」
「二本立ち」
「そっちが応なら手を打とう」
「そりゃ面白いおしゃべ殿、そんなら一つ」
「オット合点話がついた」
アドリブでこんなカンペキな掛け合いキメるお二人!気が合い過ぎ!まさに運命の出会い!宮沢和史&矢野顕子もびっくりの「二人のハーモニー」です。
しかも「おしゃべ殿」と、呼び方が更に省略されています。呼称が縮まると同時にふたりの距離も縮まってくってことなんでしょうか。
おしゃべ殿は早速「さらばこれより下地の稽古じゃ、サアサア面どの、始めた始めた」こんなに気が合う男女が出会ったのに、恋におちることもなく、さっそく稽古ですよ、娘さん、じゃなくて、面どの。
「それじゃおしゃ殿、はじまりはじまり」
さらに短くなるおしゃべり案山子氏への呼称。劇団ひとりにむかって「劇さん」と呼ぶ領域です。
さあ、稽古はじめますよ~。全大夫大合唱&三味線全員弾きの豪華な稽古です!
まずは「おさおさ申す故事来歴、往時去んぬるその昔、そのまた昔のこじを申すも畏れ猿田彦~」
天狗の面を被って娘が踊り始めます!お面がちいさくて可愛い。昔から「人形サイズの小さい道具って好きだったな~」とシルバニアファミリーの家具や食器の事等思い出します。もっともこの人形浄瑠璃のお人形さん方、だいぶ大きめですが。
ずらり居並ぶ大夫さん&三味線さんたちの音、本当に圧巻、壮観、満漢全席!
声と声が合わさって、三味線と三味線が合わさって、それが人形の動きと合わさって、人形だって一体を3人で合わせてるし、おしゃ殿と面殿も合ってるし、「合い」の極みです。「合い祭り」です。「合わせ祭り」です。ともあれ大夫と三味線のハーモニーがズンズン腹に響いてきます。
さて天狗になった面売り娘、なにやらおめしかえです。
「さてその次に控えしは、そも誰様とおぼしめす」
「ハテサテ何処かで見たような、オオサそれそれそもやもそ」
「そも」っていいな~。「そもやもそ」もいいな~。発音してるとなんか口の中がモソモソしてきもす。声に出したい日本語がココニハタクサンアリモス。カタコトで失礼しもす。
ハテサテお次はそも誰様かといいますと、
「どこか愛嬌千客万来、招く姿の大徳有人、福助面とはきっついか~」
キ・ツ・イ!(玉置浩二)いや、キツくないよ!福助キャワイイ~!ていうかこの時代の「きつい」ってどう意味なんじゃろ?衣類はいつのまにか紫に。
扇をヒラヒラさせております。
「さてもきついはその後へ、ひょろり出でたるおらが顔」
キ・ツ・イ!(玉置浩二)うん、これはキツイ!ひょっとこです!
「へへらのへ、粋も不粋もわけ識らず」
「オホホホホ」「エヘヘヘヘ」
微笑ましいやら、混沌としてるやら。動きも奇妙やら可愛いやら。
「オホホエヘヘ」だけでも十分癖になるのに、ここへかなり殺傷能力の高い「ズンベラズンベラ」というフレーズもドロップされます。そしてもうこのあとズンベラズンベラが頭から離れないこと請け合いなのです。
「権兵衛が種蒔きゃからすがほじくる、三度に一度は追わずばなるめえ、ズンベラズンベラ…」
「オホホホホ」
「エヘヘヘヘ」
「オホホ」
「エヘヘ」
「オホホ」
「アハハ」
「オホエヘアハ」と「ズンベラ」の繰り返しで、いろんなところが弛んでくるのを感じます。そして「もうどうにでもなれ~アハハ」とばかりに脳内に新しいドアが設置され、そこを開ければもう「オホエヘアハ・ズンベラ小宇宙」もしくは「常春のオホ・ズンベラ・リゾート」へと通じて行きます。おめでたい感じになってきました。
面どの(面売り娘)は忙しく赤い着物を脱いだり着たりとまめにおめしかえしてて、初稽古だというのいつでも勝負できる体勢であるのが本当に偉いですよね。
さてさてお次は「乙にすましたその後ろ影、萩か桔梗かさて女郎花(おみなえし)、振り向いたお顔が」
「やや、おかめ」
現代っ子の私にはよくわからないのですが、「おかめ」は昔じゃ美人てことじゃなかったんでしたっけ?だから「ワー!女郎花ばりの良い女~」なのでしょうか?それとも女郎花キターと思ったら「おかめ=ブス」でがっかりなのでしょうか?私としてはがっかりの方がなんとなく腑に落ちます。綾小路きみまろ的展開。ていうかきみまろがこう言った浄瑠璃とかふまえてネタを作ってるんでしょうか?おかめときみまろについて疑問と興味が沸きます。
さてこのおかめ面どの、
「糸で結んでその下心、恋と言う字に読み習た、そんなお方の名を聞かんすりや、後先覚えず中の字忘れた」なんて歌いながら手ぬぐいのようなすてきな柄の布(遠目なので詳細不明)を出してきまして、これを器用にたたんだり広げたり、ヒラヒラさせたりしてます…凄い!私、人間にもかかわらず服とか布たたむとはじっこ合ってなくて下手なのに。だれか私を3人がかりで動かしてください。
「いつかお腹にやはや岩田帯、めでためでたの子宝持った」
あれまあ。おかめさんたら。おめでとう。
そしてまたもなぜか出て来る種まき権兵衛ズンベラ節。え、おかめの夫は種まき権兵衛なの?ここでいう種まきってもしかしてエロ?カラスがほじくるとかももしかして隠語?と年甲斐もなく頬を赤らめながら人形に無言で問うも、またまた出て来る&まだまだ続く「ズンベラズンベラ」そして「オホホホホ」「アハハハハ」のネバーエンディングストーリー。答えは笑いのケムにまかれて。多分エロじゃなさそうだけど。オホホホ、アハハハハ。
最後とおぼしき場面にさしかかり、おしゃ殿も面どのも客席を背にして舞台の奥の方を向きました。ですので人形遣さん達3人も舞台の奥の方を向いてます。間に木をはさんで、奥の壁の方を向いて、しん、となる人形&人形遣いさんたち。一瞬、なんとも言えないシュールな絵になりました。なんとなく映画「ブレアウィッチプロジェクト」の最後のシーンを思い出すような怖さも多少あります。
そして振り返ると~!
二人は天狗と福助の面をつけて、おめしものも赤と黄色でなんだかめでたい。
「笑う門には福々の神、幾千代八千代、永へに祝い納めて
「エヘン、めでたけれ」
祝い納めて、めでたけれ~~!
拍手拍手!めでたけれめでたけれ!ズンベラズンベラ!
なんとも初春らしいにぎやかで、目にも耳にも楽しうございました!
なんだかやる気がでましたよ。あんな風に気が合って、金勘定とか商売を優先とかも関係なくなってしまって、やってるうちにどんどん楽しくなって、「あ~俺たち楽しすぎ!」と思えるような仕事をして行きたい。そしてそんな楽しい出会いがあると良いなと、おしゃ&面の二人を見ていて思いました。あの人たち、このあと恋に落ちたりするのでしょうか。とってもお似合いだと思いますが。
大夫さん&三味線さんが大勢で、音がど迫力なのも最後まで途切れることなく盛り上がることができる要因と思います。大所帯バンドのライブ(スカパラ、じゃがたら、渋さ知らズ、アウトドアホームレス等)の昂揚感に近いものがありました。だからロックとかフェスとか好きな若者も、ぜひ文楽見たら良いと思いますよ。(前出のバンドは2000年代の若者になじみがないかもしれませんが良い例が思い浮かびませんでした。今大所帯バンドっていったら何なのでしょうか教えてください十代の皆様)文楽だってね、見ながら踊ったりしたら良いんです。「自分の踊りを踊れば良い」そう、じゃがたらの江戸アケミも言ってます。
しかし「舞台を見ると9割寝てしまう」私ですが、夏休み親子文楽に続いて、やはり今回も寝ませんでした。これも当社比ですが、私結構文楽合ってるんじゃない?え、面売り見たくらいで「文楽合ってる」とか言うなって?オホホホホアハハハハ。ズンベラズンベラ。
このあとおにぎりを食べて後半戦、「近頃河原の達引」と「壇浦兜軍記」を見るのですが…!
その感想を書くにはもうスペースと時間と気力が…無い!
ざっくり言うと後半戦も素晴らしかったです。泣きました、泣きましたよ!堀川猿回しの段、最高でした。だから本当はお猿メインで「かんげき日誌」も書く予定だったのに、入り口の面売りにとっつかまってよろしくねんごろしてるうちに本命のあの子のとこまで行き着けませんでしたズンベラズンベラ!
でもね、実を言うとちょっとだけ、ほんのちょっと、ほんの5gくらいですよ。
壇浦兜軍記で寝ました…阿古屋の悲しみの音色に包まれながら、阿古屋ほんと凄いわ…と思いながら…。
もう少しまともな感想がかけるオトナになってから書きますねズンベラズンベラ。
■多田 玲子(ただ れいこ)
イラストレーター、美術作家。1976年生まれ。多摩美術大学彫刻科卒業。カラフルな色彩と珍妙なモチーフ選択で知られ、多数の装丁、雑誌の挿絵、アルバムジャケット、ファッションブランド等の仕事を国内外問わず手がけている。現在、漫画「ちいさいアボカド日記」を3巻まで発行している。
2人組パンクバンド「Kiiiiiii」のドラマーでもある。関西在住。
(2014年1月16日第二部『面売り』『近頃河原の達引』『壇浦兜軍記』観劇)
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