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文楽かんげき日誌

はじめての文楽親子劇場

多田 玲子

こんにちは、日本の伝統芸能ド素人のイラストレーターの多田玲子です。もう冒頭に謝っときますよ、すいません!ド・シロートです! だから伝統芸能好きの皆様が読んだら「ズコーっ!」ってなるような発言がこのあと満載だと思いますのでその辺ご容赦くださいね(玄人のみなさん、裾野を広げるためには、シロートへの温かい目、温かい目が大事です!)むしろ私と同じく「文楽?ハニャ?」の方に読んでいただけると幸いです。 そんなド・素人の私ですが、大人になるにつれ「伝統芸能とか知りたいわ(知ってなければやばい気がする!)」っていう気持ちがむくむく出てくるんですよ。(同時に「紅葉って良いな」「四季折々の花って良いな」という気持ちがすんなり沸いてきています。10年前なら「紅葉?どーでもいいだに~。アイスでも食うべ」みたいな感じだったのですが。)

友人のほしよりこさんと大阪を歩いていたら文楽劇場にさしかかりました。その際に「文楽面白いから、絶対見た方が良いよ!」と目をキラキラさせて言われ、ひとまず中に入ってみると展示室になんだかただならぬ気配の人形の頭首(かしら)。聞けばニカワで溶いた胡粉なるものを何十回も塗り重ねてできており、おまけに公演ごとに塗り替える、と?!手間ひまかかってますなあ!そら、なんとも言えぬ妖気が漂うわ。しかもこの人形を3人掛かりで動かしてる。え、一体の人形動かすのに3人も?!「それって~もう~人形出て来ないで、人がやった方が早くね?」と10年前の私ならば思ったところですが今の私には「3人で力を合わせることで人形に…命が…吹き込まれるのか!魂が…そこに…生まれるのか!」といたく感激し、すっかり興味を惹かれました。傍らのチラシを見ると「夏休み文楽親子劇場 金太郎の大ぐも退治」。おお!これはわかりやすそう!そして歌舞伎、狂言、能(いずれも外国人の接待)すべてで寝てしまって(興味はあるのに~!)自信喪失気味の私でも、これならいけそうだ!だって本来人形劇とか好きだもん!そして子持ちには嬉しい親子鑑賞!しかし4才の息子、展示室は気に入ったようだったが「おにんぎょう、うごくの…こわい」と尻込み。でもこのチャンスを逃したらいつ観に行けるかわからんべ!絶対一緒に行ってもらうわよ!

と言う訳で、8月4日、夫と息子4才と3人で、予備知識ほぼなしで初文楽でございます!しかしのっけから遅刻して親切な解説を聞き逃し反省。息子用に座席クッション(こりゃ良い!ちびっ子の座高が高くなります!)を貸してくださいましたが怖がる息子はパパに抱っこ…。 劇場、思いのほか広いのね!おまけに、大夫さん(語る人)と三味線さんていうんでしょうか、舞台の右側にずらっとカミシモのおじさんたち(遠目なのですがおそらくおじさん)が…。

そして字幕が舞台の上面にでてる!前にオペラ(外国人の接待)を観に行ったとき以来の舞台に字幕(その時も当然寝ました)!劇場の椅子って寝心地良いですよね!やばい、もう寝そう!しかし「今回は寝ないぞ」と意を決し、レポートも書くつもりなのでペンと紙を持って舞台を見つめます。 さあ、始まりましたよ!大夫さんが語り出します。三味線が響き渡ります。

「イワオガガたるアラチヤマ~ショウハクしげりてかくかくたるみねに、セイソウコビョウのヒサシ…」 な、何いってるかわかんね~~!でも!でも!なんか凄く良い!心にぐっときますよ。というか、馴染みのあるなにかに似てる…。五秒考えてわかりました!人間椅子(日本を代表する文芸ハードロック&ヘビーメタルバンド)みたいだ!もしくは大好きな歌手の遠藤賢司さんみたいだ!っていうかその人たちがこういった義太夫節に影響受けてんだろ!っていうツッコミはもう自分で入れてますのであしからず。だもんでね、いやはや、なじみ深い感じ!私もまねしたくなります。「ものすごくもまた、すーさーまーじーきーーーー」とか「ふるいわななきーーーーーーー逃げ帰る」と「き」の部分をかなり伸ばしてます。

さあ、やっとこ輿(こし)を担いだ人形が登場です。そして輿を置いたらそそくさと逃げ帰ってしまいました。そして板でできた黒雲が出て参りました、煙と一緒に!煙=エンターテイメント!そこから赤鬼と青鬼(緑鬼)が出てきました!

はじめての文楽親子劇場

どうもカゴの中身は人身御供の娘さんのようです。鬼たちときたら本当にスキモノ&悪党の極み!「とふから念掛けたアノ娘、腹存分に楽しんだその上で、大江山へ売り渡して大金儲け~」 ひ、ひど~い!またこの語り口が鬼のやらしさ満載なんです。しかもこのドカドカと無神経な感じの動き…コンビニの前とかで深夜にジャージきてたむろしてゴミのポイ捨てとかしてそう!そうか、あー言う奴らが鬼のモデルなんだな!いつの時代も悪い奴っているもんね。もう金太郎~はやいとこ出てきてやっつけちゃってよ~!と願っていると、輿から飛び出す真っ赤な金太郎(小顔)!娘に替わって輿に入ってました!

はじめての文楽親子劇場

「おのらが手めを上げたれば、どいつもこいつも踏み殺す、覚悟覚悟」ほお、威勢良いね!鬼踏み殺し!きりっと首を振って、ひじとひざもびしっと曲げて、見得を切ったりしています。かっこいい!そして「大マサカリ、片手に振って打ちまくり、真っ向梨割唐竹割り」しますとあっさり鬼は退治されてしまいました!鬼、雑魚すぎ!しかし「真っ向梨割唐竹割り」っていう文句良いなあ。ぜひ日常に取り入れて行きたい。ところで金太郎には鬼が雑魚だとわかってたようで、「人を悩ます売僧(まいす)めら、これへ出やう」と巌の方をにらんで言いますと、煙がモクモク立ち上る!こりゃあ本当の悪のおでましのようですよ!

「我こそは市原野の鬼童丸とはわが事なり!」キンキラの悪漢(ピカレスク)鬼童丸登場!か、かっこいい♡金太郎より顔も髪型も衣類もこっちのが好み♡!さっきまでは「金太郎やっちまえ!」だったのに女心には困ったものですね。悪はやっつけて欲しい気持ちもありつつ、ワルがかっこ良くみえたりもする年頃です。

はじめての文楽親子劇場

はじめての文楽親子劇場

「酒呑童子と心を合わせ、習い覚えし幻術にて、数多の女を拐(かどわか)せしも、まさかの時の軍用金、うぬら如きの小童に見顕わされしは残念残念、その返報にはうぬが命、観念せよ」え~幻術で数多の女のをかどわかしてきたの♡?このドンファン~♡つうか「酒呑童子」ってよく聞く名前ですが…すいませんどなたなのでしょうか…?古典シロートの私には名前の雰囲気から「酔拳」の若くて陽気なジャッキーチェンをぼんやり想像しましたが、なんと様々な伝説を持つ、八岐大蛇の息子?で、「鬼の頭領」だそうですよ!つまり鬼の中の鬼!陽気なネーミングとはうらはらに裏社会のとんでもない大物でした。鬼童丸はその弟子(一説によると息子)なんですね。さあさあ金太郎と鬼童丸の大立ち回りです!エキサイト!鬼童丸さん負けないで!もはや人形とも思わずのめり込んで戦いを見守っていたのですが、不意に大夫さんの方を見たらこんな表情でした!

はじめての文楽親子劇場

渾身!!これをみてまた更にエキサイト!そしてうちの4才はどうしてるかと思ったら意外にしっかり舞台に食いついて見てる!いいぞ!

そんな風に大夫さんと息子を見てる間に、あれ?いつの間に舞台上に大量に人がいるぞ?しかも人形1体につき人形遣いさんが一人か。ということはこの人たちは脇役だね。ひとり衣裳が豪華(上が緑、下がオレンジ、そして烏帽子は金!)かつ3人遣いの人形が御大将か。字幕も見過ごして話の流れが読めなくなりましたが、金太郎サイドの人々のようです。(鬼童丸派の私にとっては敵ね!) 鬼童丸は『「ヤア様々の戯言、余人は知らず鬼童丸、わが神変の奇特を見よ」と呪文を唱へ印を結べば』また煙です!!煙、大サービスですね!煙とともに鬼童丸様は消えてしまいました。そしてズモモモモ、と後ろから怪しいお社が登場!勘の良い金太郎、すぐに「さては」と合点し、鉞打ち振り「古社、微塵になれ」と打ち砕くと…ギャーーー! 大ぐも!!!!そうだった、この話、「金太郎の大ぐも退治」でしたね!半端ない大きさです(車くらいの大きさ?)!その大ぐもに向かって数多の多勢たち(1人形につき1人形遣い)は果敢にアタック!しかし御大将(源頼光と言う方だそうです)は見てるだけ~。こういう上司やだわ。多勢たちはあっさりやられ(ブラック企業の使い捨て雇用)、金太郎が大ぐもに攻撃!足一本づつを丁寧に攻撃して行きます!さらにのっかってポカポカ!大ぐもも負けじと蜘蛛の糸(昔流行った「クレイジーストリングス」のようなもの)をふっかけます!更に上から小蜘蛛がズラリ&ブラリ!そいつらが一回下にストンと落ちると、下からまた別の差し金のついた小蜘蛛が現れ、足下でザワザワワラワラ、金太郎を攻撃!この蜘蛛が本物だったら相当気分悪い事になりそうですが、人形だからなんだか可愛らしい!下から蜘蛛出してワラワラしてる人きっと楽しかろうと想像。

想像の世界に入っていたらまた急展開が起きており、あれ大ぐもにお顔が?!つーか、鬼童丸様?!なんか御大将が剣を見て誇らしげだし?!ウッカリしてたら話の筋がまたもわからなくなるシロートですが、御大将が「只今よりこの剣、蜘蛛切丸と改めて永く源家の宝とせん、最早秘術は消へ失せたり。早々降参つかまつれ」とおっしゃるので、なるほど、刀が大ぐもを破ったでござるか…。と鬼童丸派の私はガッカリ!しかも金太郎にやられたでも、なんにもしない御大将にやられたでもなく、刀パワーにやられたのかいな!まあ実際やられる時ってそんなもんですよね。

鬼童丸は無念の歯噛みをし(歯噛み萌え~)「チエヽ無念や残念や、我が幻術の失せたるか、たとへ術は破るるとも、多年の大望このままに置くべきぞ。思い込んだる我が一念、受けてみよや!」と御大将に斬りかかる!きゃ~カッコイイ!あきらめの悪い男って好き!術なんか消えてもまだまだいけるよアンタなら!あんななんにもしないで刀にうっとりしてる上司なんか斬って捨てちまえ~!と思ったら「やらじ」とこれを止むる金太郎。しかし御大将、朗々と「ヤアヤア金太郎、鬼神退治の手始めに蜘蛛の妖術破りしは幸先よし」と呑気!まずは命救った金太郎にお礼言ってください!さらに「この機に乗じて、丹州の大江山へ押し寄せ、アウアウアウおしよ~~~~せ~~~~~」アウアウアウって!でもまねしたくなる、癖になる、この語り口!

それはさておき、つまり勝負は本拠地の大江山でつけようってことですね、御大将。エンディングが近い雰囲気が匂ってくる中、天井からなにやらワイヤーのようなものが…これらが鬼童丸の人形遣いさんに、せっせせっせとくっつけられています!まさか…まさか?!「これより彼の地に急ぎ、勝負の雌雄を決すべし、さらば!」と鬼童丸は蜘蛛の糸投げて …と、飛びました!!!宙乗り~~~!!文楽ってば(というか親子劇場ってば!)出血大サービス!!エンタメの極み!!そして金太郎も「ヤア逃がさじ」と追って宙に舞いましたよ!2体の人形&人形遣いの皆様がほぼ私の頭上を通って行きました!!息子も大興奮で思わず拍手!私も夫も大拍手!いや~面白かった、面白かったよ~!

興奮さめやらぬうちに、すかさず解説コーナー「ぶんらくってなあに」が始まりました。 文楽は元は人形浄瑠璃と言われてて、人形が浄瑠璃でドラマを表現してる、んだそうで(記憶あやふや)。 独特の大笑いの方法を全員で練習。そして人形の頭(首)のアップをスクリーンに映して解説。顔も良い動きしてるなあ。顔の細かい所を一度近くで見て頭に入れておくと、脳内メモリーが見えない所を補ってくれてもっと楽しめたかもなあとおもいました(席がちょっと遠かったので、顔の表情そこまでわからなかったのです)。「より目」っていうのは「力強い」感じを表してるそうで、これも独特ですね(歌舞伎とかもそう?)。だって現実ではここ一番で力強さ発揮する時より目にしないよね。

「3人遣い」の解説。 首(かしら)と右手が一人で主遣い、それから左手担当の左遣い、そして足遣いの3人構成なんだそうです。首(かしら)と右手の「主遣い」さんより、左や足の方が、ある意味大変そうな気がします。それぞれのパートにそれぞれのロマンがありそうですね。そしてきっと通のみなさんは遣い手さんの動きの違い等にも着目してるのでしょう、シロートの私にはまだそこまで想いが及びませんが。あと大夫さんや三味線もきっと「私は○○さんの語りが好み♡」とか「この演目はこの人でなきゃあね」とかあるのでしょうね。わたしがBerryz工房全員の声を聞き分けて「やっぱ雅ちゃんの声が一番好き♡」とか「『消失点』は愛理ちゃんが歌うより雅ちゃんが歌った方がいいね」とか言うのと一緒で。(みなさまもどうぞサッカー、野球、音楽、仏像など得意のジャンルで例えて考えてみましょう)

「この中でやってみたい人いませんか~」と募って子供が3人で実際に動かしていました。親の気分でひやひや見守りましたが子供たちはとても上手に動かしていました。さてうちの息子は?と見てみると、行ってしまった金太郎が気になってしまって、ずっと後ろの上方を見て「キンタロウさんどこいったの…」と思い詰めた表情です。大丈夫、あいつらは大江山に行っただけだから心配すんな♡!

ここで一旦外にでて30分休憩。買って来たパンを食べるのも楽しかったけど、劇場のお寿司やお弁当も美味しそう。それにやっぱこういうときはパンよりお寿司の方が「気分」だったでございますな。うむ…次は寿司にしよう!

午後からは「瓜子姫とあまんじゃく」。「金太郎~」と違って口語ですよ!そして「金太郎~」のようなエンタメはありませんでしたがこちらもおもしろかったです。簡単な感想ですいません。もう金太郎のこと、そして鬼童丸様のことを書いただけで燃え尽きました。 ひとつ言えるのは小学生以上の子供たち(というか前列の賢そうな坊ちゃん)は口語のせいか、金太郎のときよりお話に入り込んでるような感じがしました。(ただし4才の息子は妖怪「山父」の怖さに、夫の手を引いて早々に劇場を飛び出しました…)

しかし大江山での戦いの続きはどんななのだろう?これは「大江山の鬼退治」という演目で見られるのでしょうか。ぜひ今度はそちらを見てみたいです。鬼童丸様にもまた会えるのかしら♡? そしてゆくゆくは、もっと大人っぽいのも見にきます。外国人は接待せずに一人で、そしてベストコンディション(=くる前に昼寝をしておく)で、必ずや見に来ますからね!まずは心中ものだ~!待ってろよ、心中~!エイエイオ~!

■多田 玲子(ただ れいこ)
イラストレーター、美術作家。1976年生まれ。多摩美術大学彫刻科卒業。カラフルな色彩と珍妙なモチーフ選択で知られ、多数の装丁、雑誌の挿絵、アルバムジャケット、ファッションブランド等の仕事を国内外問わず手がけている。現在、漫画「ちいさいアボカド日記」を3巻まで発行している。
2人組パンクバンド「Kiiiiiii」のドラマーでもある。関西在住。

(2013年8月4日『金太郎のおおぐも退治』『瓜子姫とあまんじゃく』観劇)