国立文楽劇場開場40周年おめでとうございます。
コロナ禍で上演がままならず公演形式が変わるなど、ここ5年間でも大きな変化がありました。40年の歴史を振り返ればなおさらのこと。今こうして私も文楽に心ときめかすことができているのは、劇場に携わる全ての方々(観客も含めて!)の尽力の賜物と感謝いたします。
いつもは観劇後にその公演について書かせていただいていますが、せっかくですので今回は私と文楽劇場の思い出、ひいては文楽との出会いについて書かせていただきます。
初文楽劇場は鑑賞教室。高校の授業でした。朝は学校で授業を受け、午後から劇場に各自移動し観劇しました。すみません、到着した時に国語の先生と会って話した記憶は鮮明にあるのですが演目含めて鑑賞時の記憶はさっぱり残っていません……。
次に文楽と出会うのは大学の授業と東京の国立劇場です。シェイクスピアを目当てに履修した中世戯曲の授業で内山美樹子先生の講義があったときのことです。内山先生については、4月文楽公演 豊竹若太夫襲名披露演目の『和田合戦女舞鶴』を研究再評価されたことでご存知の方も多いでしょう(公演プログラムをご参照ください)。 いっぱい抱えた資料の重みに折れそうなくらい華奢な先生が教壇に立たれ浄瑠璃について語られるときの生き生きとした姿。 物語の舞台となった大阪を歩いて回った話など聞くと「え? その距離歩いたんですか?? めっちゃ遠い……」と驚き、そこまで人を動かす人形浄瑠璃に俄然興味が湧きました。 ちょうど国立劇場にて『菅原伝授手習鑑』が通し狂言でかかる時。(観劇すれば加点との先生の言葉があったような記憶もあり)劇場へ。 驚きました。 声の迫力すごい! え? 若い時はこの人もっと迫力ある声だったの!?このおじいさんの軽やかな人形の動かし方は何??? この人形劇超カッコいい!!!
そしてやってきた夏休み。そう、夏休み特別公演です。 「そういえば高校の時に観に行った劇場があったなぁ」と記憶を辿り、国立文楽劇場へ初めて自分で赴いたのです。 『曾根崎心中』でした。 なんて切ない、でもロマンチックな悲恋なのでしょう。 舞台の上に人形だけがいるような、人形がひとりでに動いて声を発しているように感じられる不思議な感覚。お初や徳兵衛が生きていました。 フワフワと積み重なってきた文楽との出会いが確かなものとなった瞬間です。
さて、今年の夏の文楽は?
名作劇場は『生写朝顔話』。 お嬢様の一途な恋の物語。痺れ薬で暗殺の計画が、笑い薬で覆されるところはとても痛快です。休憩時間を過ごすロビーには朝顔の飾りが登場しています。こういう空間演出も嬉しいですね。
サマーレイトショーは『女殺油地獄』。このお話は心に何かがべっとりからみつくのです。劇場を出た時に感じる蒸し暑さ、風のない夏の夜も清々しく思えるほどにじっとりした何か。それが妙に心地よくて観劇後に飲む一杯のビールが心底沁み渡るのです。物語の設定は旧暦の端午の節句の頃、夏の夜にピッタリの演目だと個人的に思っています。
そしてなんといっても親子劇場!『ひょうたん池の大なまず』では池の中と陸上とを同時に楽しめる演出で大人もワクワクします。 孫悟空(とその分身のモンキーズ!)の動きにも心が湧き立ちます。 資料展示もなまずと西遊記で組まれていて豆知識がずらっと並んでいますよ(劇場に来ればドリルやプリント以外の宿題が片づきそうですね)。 終演後の人形のお見送り&フォトセッションに子どもたちが嬉しそうに嬉しそうに並んでいるのにはこの先の文楽のファン・担い手の種が確かに撒かれたと思われます。
今年になり、とりわけ幕見席には海外の方も多いです。そのみなさんがスムーズに楽しめるような案内も多く頼もしく見ています。文楽とこれから仲良くなろうという方には時間・内容としても夏は一番観やすい公演ではないでしょうか。みなさん、ぜひ夏のイベントリストに文楽も加えてくださいね。
(2024年7月22日第1部『ひょうたん池の大なまず』『西遊記』、第2部『生写朝顔話』、第3部『女殺油地獄』観劇)
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