第1部は親子劇場です。浴衣で来場する親子や、乳母車で来る小さなお子様がいれば、いつもの文楽ファンの姿もあります。私は前回(2019年)『かみなり太鼓』を拝見して「痛快で楽しく笑ってお仕舞いになる作品って良いなぁ」と思ったので、再演を心待ちにしていました。
「わかっていても、つい『あつい』」という語り出しにどっと笑う観客。今、毎日そんな挨拶していますものね。私が観劇したのはちょうど天神祭の頃。舞台では合間合間に祭囃子が聞こえてきます。現実と舞台の世界がぴったりと重なってきます。なんと花火も! 「え!? こんな演出あったんだ…」私は楽しかったなぁという心の思い出だけをずっと抱きしめていたようです。
その後の『西遊記』は初めて観る演目。「西遊記? 孫悟空? お子様向けでしょ」と思っていた私を含むオトナの方々、ぜひ観てみてください。幕が開いて閻魔王宮の迫力に息を飲んだのはオトナ達です。うっかり忘れがちですが文楽で動くのは人形です。孫悟空はもちろん、閻魔様も鬼もガイコツも、人形の本領発揮! 妙にリアルで愛嬌もある彼らの熱演! 宙を歩く悟空の如意棒がアナタの頭上でびょいーんと延びるのは目を丸くすること請け合いです。
第2部『妹背山婦女庭訓』は4月文楽公演からの続きです。
前回は物語のきっかけから始まり、若い恋人同士が政治争いに巻き込まれて悲しい最期を迎えるシェイクスピアの悲劇のようなところで幕。この先どうなるかは7月ね、だっただけに客席にも「続きが聴きたい、観たい」という空気が満ちていました。これまでに何度も鑑賞した『妹背山婦女庭訓』ですが、今回は国立文楽劇場では初となる「入鹿誅伐」まで上演されます。忠臣蔵なら討ち入りにあたるクライマックスが上演されていなかったのは面白いですね。物語で人気の箇所が他にもあるという江戸時代の脚本の妙です。
国の大きな動きの中で全ては愛しい恋人のため! と命を燃やす健気なヒロイン達。舞台に上がっているのは男性ばかりなのに、愛らしい動きと声には女性がそこにいるようです。
そして第3部は大阪の夏ならこの演目『夏祭浪花鑑』。
高津神社の夏祭りの頃の出来事が描かれますから、御囃子が聞こえれば御神輿も通ります。
(お気づきですか?朝から夜まで劇場にいれば大阪を代表する夏の祭を1日で2つ味わえるんですよ♪ )
人形遣い吉田玉男さんが重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されることもあり、舞台には気合いと気迫が満ちていました。言葉なく繰り広げられる義平次への滅多刺し。暗がりに浮かぶ団七の白い体。息を潜めて事の成り行きを見守ってしまいます。太夫さんの語りがないのに団七の荒い呼吸が聞こえてくるようです。もはや人形が操られているとは思えません。今は迫力の映像作品がたくさんありますが、世界に誇る我らの人形劇のリアリティは圧倒的ですね。
1日全ての演目を拝見して改めて思うのは、創意工夫が詰め込まれている人形浄瑠璃文楽の見応えとその鑑賞体験の楽しさです。特に今夏はどの幕にも視覚で楽しめる要素が沢山です。初めての方には親切なイヤホンガイドがあります。(第2・3部は英語版もあります!)
文楽ってムヅカシソウ……など構えず、夏の思い出作りに気楽にお楽しみください。
(2023年7月24日第1部『かみなり太鼓』『西遊記』、第2部『妹背山婦女庭訓』、
第3部『夏祭浪花鑑』観劇)
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