物語は、上杉家の家老・和田行家(わだゆきえ)が家中の沢井股五郎(さわいまたごろう)に 殺される「行家屋敷」から始まります。行家の許を訪ねた股五郎は、和田家の家宝・正宗の刀を騙し取ろうとして失敗し、行家を殺して逃亡します。
股五郎は従兄弟の沢井城五郎(じょうごろう)によって円覚寺内に匿われます。行家の剣術の弟子である佐々木丹右衛門(ささきたんえもん)は円覚寺に出向き、正宗の刀と引き換えに股五郎を受け取ります。しかし、門を出ると丹右衛門は騙し討ちに遭い、股五郎は逃亡します。そこに駆け付けた行家の息子志津馬(しづま)に向かい、唐木政右衛門(からきまさえもん)に助太刀を頼めと言い遺して、丹右衛門は落命します。政右衛門は志津馬の姉お谷の夫で、正義心の強い剣の達人でした。
「藤川新関」では、剣術遣いの山田幸兵衛(やまだこうべえ)の娘お袖と志津馬が出会います。通り掛かった沢井家の奴助平(すけへい)が遠眼鏡(望遠鏡)で覗き見に夢中になっている隙に、志津馬は関所の切手と書状を奪います。続く「竹藪」では、政右衛門が抜け道を通って関所を破り、志津馬の後を追います。
志津馬は、奪った書状を使って股五郎に成りすまし、幸兵衛の家に宿泊します。股五郎に味方する幸兵衛から情報を得るためでした。この直後、幸兵衛は、十五歳まで養育していた愛弟子の庄太郎と再会し、妻のおつやと温かく迎えます。
この庄太郎が唐木政右衛門であることを幸兵衛は知らず、股五郎を政右衛門から守ってくれるよう頼みます。政右衛門は、股五郎の居場所を探り出そうと考え、正体を悟られまいと努めます。そのため、降りしきる雪の中、偶然宿を求めたお谷を追い返し、乳呑み児の一子まで手に掛けてしまいます。幸兵衛は、政右衛門がうっすらと目に浮かべた涙を見て、庄太郎が誰かを悟ります。そして、密かに素性を見抜いていた志津馬と会わせて、股五郎の行方を教えるのでした……。
政右衛門がお谷を寒空の下に捨て置いて苦衷に堪えながら莨(たばこ)の葉を刻む件は、通称〈莨切(たばこきり)〉と呼ばれる有名な場面です。
そして、ついに伊賀上野の「敵討(かたきうち)」を迎え、
政右衛門は志津馬に本懐を遂げさせます。